都合が良いのか悪いのか。
その日の夜に、憩くんと食事に行く約束があった。
憩くんとカフェに行ったあの日から1ヶ月程が経過した。
あれからも変わらずコンビニで顔を合わせていた私たちは、気づけば週に1~2回、お互いの気になったお店に一緒にご飯へ行く関係になっていた。
今日のお店は、憩くんが見つけた小さなビストロ。
「すみません。葉山で予約しています」
案内された先の席で、既に飲んでいた憩くんは私を見るとにっこりと微笑んで片手を上げた。
照明がやわらかく、壁には風景画がいくつも飾られている。
店内角の二人用のテーブルに座り、私は遠慮なく生ビールを注文した。
「ここのお肉が美味しいって有名で、来てみたかったんだよね」
「美味しそう。もう頼んだ?」
あれから知った事実としては、憩くんは私より二つ年下の男の子。
落ち着いた風貌から大人っぽく見えていたので驚いたけれど、大人になって二歳くらいの年齢差は特段なんとも思わない。
それでも話しやすさは一級品で、始めこそは緊張していた私も、今はすっかり心を開いてしまっていた。
取り繕わなくても良い空間はすごく居心地がよかった。
「……っていうことがあって。なんだかなぁって」
飲みながら私はその日坂井さんに言われた話を口にする。
不満そうに唇を尖らせると、憩くんはグラスを持ったままちらりとこちらをみた。
「あはは。ちゃんと否定するのが清花さんぽいね。俺ならたぶん『そうそう〜』って適当に言っちゃう」
想像したことのない回答に、私は驚く。
「そんなこと言ったらあっという間に結婚だなんだって盛り上げられて苦しくなる一方じゃん」
「だって本当に違うなら、相手がどう思ってても問題なくない?」
さらっと言う声には力みがない。
『自由』という言葉が似合う憩さんらしい回答だと思って目を丸くした。
私はどうしても、自分の理想と違う自分だと思われるのが嫌だと思ってしまう。
それが例え、自分に関係ない人だとしても、自分のことを好き勝手言われるのは嫌だった。
「憩くんって恋愛とかどうなの?今はいないんだよね?」
そんな強いのか無頓着なのか不思議な価値観を持つ彼に、単純な興味が浮かびあがり質問する。
何度かご飯を一緒に食べたけれど、憩くんのイメージは出会った時とさして変わらない。
掴みどころがなくて、ふわふわしてて、柔らかい。
言い換えると、その本質はわからないままなのだ。
「俺?俺はー……いい人がいればするよ。いなければしないけど」
至極当然のような、それでいて自分とは離れているような言葉にハッとする。
「清花さんは、恋愛は全くしたくないんだっけ?」
質問を返されて、私はうっと言葉を詰まらせる。
「したくないというか。必要ないというか……」
「必要ない?」
不思議そうに言いながらも、憩くんは運ばれてきた料理に目を輝かせながら口にする。
そのマイペースな様子に、私の心の声は自然に飛び立っていく。
「私、自立した女性でいたいんだよ。結婚とか彼氏とか、どうしても相手の生活に依存することになるじゃない。そうじゃなくて自分の力で生きていきたくて。その理想に恋愛は要らない」
言葉にしながら、自分の中の芯に触れていく感覚があった。
私は自立した女性であることに誇りを持ちたい。
……ただ、その裏には心細さを感じる瞬間もある。
それは、自分の生き方に疑問を抱くことなので口にはしないけれど。
「あー。いかにもキャリアウーマンって感じだもんね。それも素敵」
違和感を感じている様子もなく、当然のようにそう言ってくれる憩くんに嬉しくなった。
自分が少数派だということは痛いほど分かっていたから。
認めてもらえたような気持ちになって嬉しくなったのだ。
その日の夜に、憩くんと食事に行く約束があった。
憩くんとカフェに行ったあの日から1ヶ月程が経過した。
あれからも変わらずコンビニで顔を合わせていた私たちは、気づけば週に1~2回、お互いの気になったお店に一緒にご飯へ行く関係になっていた。
今日のお店は、憩くんが見つけた小さなビストロ。
「すみません。葉山で予約しています」
案内された先の席で、既に飲んでいた憩くんは私を見るとにっこりと微笑んで片手を上げた。
照明がやわらかく、壁には風景画がいくつも飾られている。
店内角の二人用のテーブルに座り、私は遠慮なく生ビールを注文した。
「ここのお肉が美味しいって有名で、来てみたかったんだよね」
「美味しそう。もう頼んだ?」
あれから知った事実としては、憩くんは私より二つ年下の男の子。
落ち着いた風貌から大人っぽく見えていたので驚いたけれど、大人になって二歳くらいの年齢差は特段なんとも思わない。
それでも話しやすさは一級品で、始めこそは緊張していた私も、今はすっかり心を開いてしまっていた。
取り繕わなくても良い空間はすごく居心地がよかった。
「……っていうことがあって。なんだかなぁって」
飲みながら私はその日坂井さんに言われた話を口にする。
不満そうに唇を尖らせると、憩くんはグラスを持ったままちらりとこちらをみた。
「あはは。ちゃんと否定するのが清花さんぽいね。俺ならたぶん『そうそう〜』って適当に言っちゃう」
想像したことのない回答に、私は驚く。
「そんなこと言ったらあっという間に結婚だなんだって盛り上げられて苦しくなる一方じゃん」
「だって本当に違うなら、相手がどう思ってても問題なくない?」
さらっと言う声には力みがない。
『自由』という言葉が似合う憩さんらしい回答だと思って目を丸くした。
私はどうしても、自分の理想と違う自分だと思われるのが嫌だと思ってしまう。
それが例え、自分に関係ない人だとしても、自分のことを好き勝手言われるのは嫌だった。
「憩くんって恋愛とかどうなの?今はいないんだよね?」
そんな強いのか無頓着なのか不思議な価値観を持つ彼に、単純な興味が浮かびあがり質問する。
何度かご飯を一緒に食べたけれど、憩くんのイメージは出会った時とさして変わらない。
掴みどころがなくて、ふわふわしてて、柔らかい。
言い換えると、その本質はわからないままなのだ。
「俺?俺はー……いい人がいればするよ。いなければしないけど」
至極当然のような、それでいて自分とは離れているような言葉にハッとする。
「清花さんは、恋愛は全くしたくないんだっけ?」
質問を返されて、私はうっと言葉を詰まらせる。
「したくないというか。必要ないというか……」
「必要ない?」
不思議そうに言いながらも、憩くんは運ばれてきた料理に目を輝かせながら口にする。
そのマイペースな様子に、私の心の声は自然に飛び立っていく。
「私、自立した女性でいたいんだよ。結婚とか彼氏とか、どうしても相手の生活に依存することになるじゃない。そうじゃなくて自分の力で生きていきたくて。その理想に恋愛は要らない」
言葉にしながら、自分の中の芯に触れていく感覚があった。
私は自立した女性であることに誇りを持ちたい。
……ただ、その裏には心細さを感じる瞬間もある。
それは、自分の生き方に疑問を抱くことなので口にはしないけれど。
「あー。いかにもキャリアウーマンって感じだもんね。それも素敵」
違和感を感じている様子もなく、当然のようにそう言ってくれる憩くんに嬉しくなった。
自分が少数派だということは痛いほど分かっていたから。
認めてもらえたような気持ちになって嬉しくなったのだ。



