休日の街は、平日の喧騒よりも少しゆったりしていて、歩くたびに人波が優しく撫でていく。私はお気に入りのピンクのロリータワンピースに身を包み、胸の奥で小さな緊張を抱えながら歩いていた。親友や家族以外には絶対秘密にしている趣味――だから、街で誰かに会わないかと、ついキョロキョロしてしまう。

「今日も、誰にも見られませんように……」

小さな声で呟き、胸のリボンをぎゅっと握る。その瞬間、視線を感じた。思わず顔を上げると――目の前に、クラスの人気者、如月湊が立っていた。まさか休日に出会うなんて。しかも、私の姿はいつもの制服ではなく、甘く可愛らしいロリータ姿。

「えっ、美羽……？」

湊の声に体が固まる。目が合った瞬間、何かが一瞬止まった気がした。私は急いで視線を逸らし、耳まで熱くなるのを感じる。

「あ、あの……その、これは……！」

言い訳はすぐに思いつかず、口ごもるしかなかった。湊は少し笑って、目を細める。

「これ、君の趣味だったのか」

――その一言で、私の秘密は終わった。心臓が激しく跳ね、手が震える。必死に頭を振り、懇願する。

「お願い、絶対に誰にも言わないで。なんでもするから、秘密にして……！」

湊は少し間を置き、意地悪そうに口角を上げる。

「なんでも言うことを聞くなら？」

私は思わず息を呑む。

「……うん、なんでも」

「なら、俺の彼女になって」

その言葉に、頭が真っ白になった。えっ、今のって――冗談じゃないよね？でも、湊の真剣な瞳が私を見つめていて、逃げられない。胸がドキドキして、心臓が破れそうなほど高鳴る。

「……わ、わかった……！」

思わず小さな声で承諾してしまった。私の秘密は守られる代わりに、私は学校一のイケメンの彼女――その立場を受け入れたのだ。

街の風が私の髪を揺らし、湊の手がそっと私の肩に触れる。普段は冷静な彼の温かさが、いつもよりずっと特別に感じられた。

「……これから、よろしくね、彼女さん」

「……うん、よろしく」

小さく頷いた私に、湊はにっこり笑った。その笑顔が、甘くて少し意地悪で、これからの毎日を想像すると、胸の奥がぎゅっと熱くなる。秘密と恋が一緒に始まった、そんな瞬間だった。