夜の海は、昼間の喧騒とはまったく違う静けさに包まれていた。
波の音が穏やかに砂浜を叩き、月明かりが水面にきらきらと反射している。
手を握ったまま歩く蓮先輩の温もりが、心の奥までじんわり届く。

「……ひまり、砂浜、冷たいだろ」
蓮先輩は私の手を自分の手で覆い、ぎゅっと握り返す。
「大丈夫です……蓮先輩がいるから」
つい小さな声で答えると、彼は少しだけ笑い、私を見つめた。

「……そうか。でも、俺の姫は誰よりも温めてやる」
低く甘く囁く声に、胸がぎゅっと熱くなる。
自然と体が彼に寄り添い、手を握り返す。

夜風が髪を揺らすたび、蓮先輩はそっと私の肩に手を回し、風から守るように寄せてくる。
「ひまり、海の匂いって……なんか落ち着くな」
「はい……波の音も、蓮先輩と一緒だから、すごく心地いいです」
思わず笑顔がこぼれると、蓮先輩も少し照れたように笑った。

しばらく二人で海を見つめて歩くと、蓮先輩が突然立ち止まる。
「ひまり……こっちに来い」
呼ばれるまま彼に近づくと、蓮先輩は砂浜の上で私を抱きしめ、耳元で囁いた。

「……誰にも渡さねぇ……お前は俺だけのものだ」

低く甘い声に体が自然に震える。
「はい……ずっと、蓮先輩のそばにいます」
抱きしめられるまま答えると、蓮先輩は唇をそっと額に重ね、次に頬、そして唇へと近づけてきた。

海風に吹かれながらのキスは、昼間とは違う特別な甘さがあった。
「ひまり……可愛いな」
頬を撫でられ、耳元で囁かれると、思わず頬が熱くなる。
「……蓮先輩……」

砂浜に座り、二人で足先を波に浸しながら、手を離さずに見つめ合う。
月明かりに照らされる蓮先輩の顔は、どこまでも優しく、独占的で、世界に私しかいないことを実感させる。

「ひまり……俺の姫、ずっと俺のそばにいてくれ」
「はい……ずっと、蓮先輩のそばに」

その言葉に胸がいっぱいになり、波の音と二人の呼吸だけが静かに響く。
夜の海は、私たちだけの特別な世界になった。