教室で退屈そうにノートに落書きをしていると、突然、扉の向こうで何かがざわついた気配がした。
「……ん?」
視線を向けると、クラスの誰もが一斉にこちらを見ている。
その視線の先に、私の心臓は一気に跳ねた。

「……蓮先輩……?」

まさかのタイミングで、蓮先輩が教室に入ってきたのだ。
黒い学生服姿はいつも通りで、少し無造作に髪が揺れている。
でも、私にはその全てが輝いて見えて、思わず息を呑む。

「ひまり……おはよう」
低く落ち着いた声が、教室中に柔らかく響く。
その声だけで、胸の奥の退屈と寂しさが一瞬で吹き飛んだ。

「お、おはようございます……!」
思わず立ち上がり、手を少し震わせながら答える。
蓮先輩は少し微笑みながら、私の前までゆっくり歩いてくる。

「今日からしばらく、俺は毎日ここに来るから」
その言葉に、心臓がぎゅっと締め付けられる。
まるで、ずっと私だけのために帰ってきてくれたみたいで、胸が熱くなる。

「……でも、授業は……」
言いかけると、蓮先輩は軽く笑い、私の肩に手を置いた。

「俺の姫が退屈してるのを見るのは我慢できねぇ」
その独占的な笑みに、思わず顔が赤くなる。

教室の中のざわめきも、私には遠くに感じる。
蓮先輩の視線と温もりだけが、世界の中心にあるみたいで、息をするのも忘れそうになる。

「……蓮先輩……私……」
言葉が途中で途切れる。
だって、こんなに突然目の前に現れて、目が合うだけで胸が苦しいのだ。

蓮先輩はそっと手を伸ばし、私の頬に触れる。
「ひまり……もう我慢すんな。俺のそばにいろ」
その言葉に、自然と体が彼に寄ってしまう。

小さく息を漏らす私の耳元で、蓮先輩は囁く。
「もう誰にも触らせねぇ……俺だけの姫だ」

教室の中でも、私たちだけの世界が広がった。
周りの視線もざわめきも、もうどうでもいい。
蓮先輩の腕の中で、胸がぎゅっと熱くなる。
この瞬間、退屈だった毎日が一気に色を取り戻す。

「蓮先輩……私……大好きです」
つい口にした言葉に、蓮先輩は満面の笑みで私を抱き寄せる。

「……俺もだ、ひまり」
その声に、全身が甘く満たされる。
教室の中の空気が、二人だけの世界に変わったようで、私はそっと目を閉じた。

――やっぱり、蓮先輩がいなきゃ、私はダメだ。
退屈で寂しかった日々も、もうすぐ終わる。
これからはずっと、蓮先輩と一緒に過ごせる。

胸の奥からじんわり温かさが広がり、私は微笑む。
「やっぱり、私……蓮先輩のそばが一番幸せ」

蓮先輩はそのまま私の手を握り、教室の中でもずっと離そうとしない。
今日も、これからも、ずっと――私だけの蓮先輩でいてくれる。