授業が終わり、廊下は昼休みに向けてざわつき始めていた。
教科書を抱え、机を片付けながら小さくため息をつく。

「……ふぅ、やっと一息つける」

そんな時、背後から低く響く声がした。
「ひまり……」

振り返ると、蓮が立っていた。昨日も今日も、こんなふうに私を見つめてくる。胸の奥が少し熱くなる。

「お、おはようございます……」
声が小さくなる。

「休み時間、どこに行くんだ？」
鋭い瞳で私をじっと見つめる。まるで、私の行動をすべて把握しているかのようだ。

「えっと……友達と話してきます……」
少し困惑しながら答えると、蓮は少し眉をひそめた。

「……俺の姫と話す必要があるのは、俺だけだ」
その一言に、胸がぎゅっと締め付けられる。怖いけど、心のどこかで安心もする――守られている感じがするから。

廊下を歩き出すと、同級生の男子が話しかけてきた。
「ねぇ、ひまりちゃん、今日の休み時間一緒にお昼食べない？」

「あ……えっと……」
戸惑っていると、蓮がさっと間に入り、私の腕を軽く掴んだ。

「俺の姫と話すな」
その低い声に、思わず息を飲む。周囲がざわつくのも構わず、彼の視線は私だけに向けられている。

「そ、そんな……」
困惑しても、逃げることはできない。彼の腕に触れられると、変な安心感があるのだ。

蓮は小さく笑い、さらに近づいて囁いた。
「俺の姫は、俺が守る。誰にも渡さない」

胸が熱くなり、鼓動が早くなる。怖い、でも守られる心地よさもある――こんな気持ち、初めてだった。

――私、本当にこの人の姫なんだ……

教室の窓から差し込む光の中、蓮の瞳が優しくも強く私を捉えているのを感じる。
怖さと安心、独占される喜び――すべてが混ざった不思議な感覚に、私はただ静かに身を委ねるしかなかった。