桜が舞う暖かい春の午後。
 新学期が始まって、少し慌ただしい日々だけど、蓮先輩と一緒にいる時間はやっぱり特別だ。

 今日は用事があって、蓮先輩の家の近くまで来ていた。
 ふと歩道を見ると、二人の人影が立っている。
 驚いて足を止めると――そこには、蓮先輩のご両親だった。

「ひまりちゃん?」

 優しい声と笑顔。
 思わず立ち止まり、ぺこりと頭を下げる。

「はい……桜井ひまりです。はじめまして、蓮先輩のお話はよく聞いています」

 するとお母様はにこっと微笑み、手を差し出してくださる。

「こちらこそ、初めまして。蓮からは、ひまりちゃんのことをよく聞いているわよ」

 緊張していた胸が、ふっと軽くなる。
 父上もにこやかに頷き、私を優しく見守ってくれる。

「蓮とは仲良くしてるの?」

 お父様の問いかけに、私は少し照れながらも答える。

「はい、とても仲良くしています。蓮先輩にはいつも……たくさん助けてもらって」

 するとお母様が嬉しそうに笑い、蓮先輩のお父様も穏やかな目で見守ってくれる。
 その瞬間、蓮先輩が背後から現れ、私の肩にそっと手を回した。

「ひまり、挨拶できたか?」

 低くて落ち着いた声に、胸がドキリとする。
 私はにっこり微笑み、頷いた。

「はい、蓮先輩のおかげで無事に挨拶できました」

 蓮先輩はにやりと笑い、少し私を引き寄せる。
 そして耳元でささやいた。

「……俺の姫だってちゃんと認めてもらえたな」

 頬が自然に赤くなり、思わず顔をそむける。
 でも、胸の奥には温かい幸福がじんわりと広がっていた。

 桜の花びらが舞う中、ひまりは心の中でそっと誓う。

 ――これからもずっと、蓮先輩のそばで、蓮先輩の家族にも認めてもらえるような姫でありたい、と。