朝の教室は、昨日より少し慣れた雰囲気。
それでも心臓はまだバクバクしている。だって、昨日のことが頭から離れない――

「……ひまり……」
振り返ると、黒髪の彼――佐倉蓮が廊下に立っていた。

「お、おはようございます……」
つい小さく挨拶してしまう。胸がざわざわする。

「昨日言った通りだ、ひまりは俺の姫だ」
低く響く声に、思わず顔を背ける。無理やり姫にされたなんて、信じられない気持ちが込み上げる。

「そ、そんな……急に姫って言われても……」
困惑しながらも、少し怒ったように言ってみる。

彼は少し笑った。
「嫌なら言え。でも、俺は変わらず守る。俺の姫だからな」

――守るって言うけど、独占する気満々だ……

そのとき、教室のドアが開き、黒薔薇組の仲間たちが入ってきた。
「お、総長! 姫は?」
「ああ、こいつだ」
総長が私を指さすと、仲間たちはニヤニヤと近づいてくる。

「よろしくな、姫さん」
「ひ、姫……?」
思わず声が裏返る。無理やり呼ばされるのが恥ずかしくて、顔が真っ赤になる。

蓮は少し離れた場所から、私をじっと見守っている。
「俺の姫だ、覚えとけよ」
その視線は独占欲たっぷりで、胸がぎゅっと締め付けられる。

――無理やり姫にされたって困惑するのに、みんなに紹介されるなんて……
でも、怖いけど、少し心が安心するのはなぜだろう。

私は小さく息をつき、肩を落とした。
――この人から逃げられないんだ……と、あらためて実感する。