新学期が始まった日。
 俺は黒薔薇組の二年として、校門前を歩いていた。
 その時、見かけた――新入生の小柄な女の子。髪は柔らかく揺れ、制服のリボンが少し大きく見える。

 ――あの子だ。俺の姫になる子は。

 理由なんて自分でもわからない。
 ただ、心の奥底から、「この子は俺が守る」と確信した。
 走り寄ると、彼女の目が大きく見開かれ、驚きと戸惑いが混ざっていた。

「お前……俺の姫になれ」

 唐突すぎる言葉だったかもしれない。
 でも、迷いはなかった。
 その時から、ひまりを守り、独占する日々が始まった。



 最初は彼女も困惑していた。
 入学したばかりで、俺の名前も黒薔薇組の存在も知らず、突然“姫”なんて呼ばれて戸惑うのは当然だ。

 教室で自己紹介し、俺が総長であることを初めて知ったとき、ひまりの目に一瞬の驚きが走った。
 それでも俺は彼女を守るために全力を尽くした。



 学校内での事件もあった。
 不穏なメモが彼女のロッカーに置かれ、夜道でも怪しい気配がする。
 その度に俺は、黒薔薇組のメンバーに警戒させ、ひまりを守る。

 夜、家まで送るときには、俺の腕の中で小さく震える彼女を強く抱きしめた。
 ――誰にも渡さない。俺の姫は、俺だけのものだ。



 だが、新たな試練も訪れる。
 転校生の來人。
 初日からひまりに告白し、彼女を狙ってくる。

 俺はすぐに彼に警告した。
 ――ひまりに触れるな、と。
 來人は挑戦的な態度を崩さないが、俺はさらに強く彼女を守る。

 教室での小さな修羅場、放課後のデート誘い――
 その度に俺は、ひまりを自分の腕の中に引き寄せ、誰にも渡さないと心に刻む。



 ひまり自身も混乱していた。
 俺と來人、どちらを選ぶべきか悩む彼女の気持ちはよくわかる。
 でも、最終的に彼女は俺を選んでくれた。

 夕暮れの校庭で、彼女が駆け寄ってきた瞬間、全身に力が漲る。
 手を握り、腕に引き寄せると、ひまりの小さな声が耳元で響いた。

「蓮先輩のそばにいます……ひまり、蓮先輩の“姫”になります」

 その言葉を聞いた瞬間、全てが報われる気がした。
 俺も答える。

「……そうか、俺の姫になってくれるのか」

 互いの気持ちを確かめ合い、唇を重ねる。
 風に揺れる髪も、夕日の光も、世界の全てが静かに二人を包む。



 來人の告白も断ったという彼女の報告を聞いた時も、俺は胸の奥で安心した。
 ひまりが迷うことなく、俺を選んでくれたこと――
 それは、俺の独占心だけでなく、愛情の証でもある。

 もう迷いはない。
 これからも、俺の姫は俺だけのものだ。
 守り、愛し、二人で歩む未来――それだけを考えている。

 俺の腕の中で、ひまりは小さく笑った。
 その笑顔が、何よりも愛しくて、守りたくてたまらない。

 ――俺の姫は、ここにいる。
 誰にも渡さない、永遠に。