総長は姫を一途に溺愛する。

 風に吹かれながら、私は決意を胸に、校庭の端から蓮先輩のもとへ走り出した。
 胸の奥がぎゅっと熱くなる。
 目の前に見えるのは、私を待つ蓮先輩の姿。

「蓮先輩……!」

 声を張り上げ、思い切り駆け寄ると、蓮先輩は一瞬目を見開いた。
 そのあと、柔らかく、でも強く私を抱き寄せた。

「……ひまり」

 低く呼ばれる声に、心が震える。
 私も自然と体を蓮先輩に預ける。
 温かくて、安心できて、全てを委ねたくなる――そんな感覚。

 しばらくそのまま抱き合い、心臓の鼓動が重なるのを感じる。

「……蓮先輩、私……」

 小さな声で言う。
 胸の奥で揺れていた迷いは、もう消えた。
 私ははっきりと心に決めていた。

「……蓮先輩のそばにいます。
 ……ひまり、蓮先輩の“姫”になります」

 蓮先輩の腕が、ぎゅっとさらに強く締まる。
 耳元で低く、でも優しい声が響く。

「……そうか、俺の姫になってくれるのか」

 その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなり、涙が頬を伝う。
 でも、悲しい涙じゃない。嬉しさと安心と、愛されている実感でいっぱいの涙。

 私の手をそっと握り、蓮先輩は微笑む。
 その笑顔を見た瞬間、世界が静かに穏やかになったような気がした。

 ――私は、これからずっと、この人のそばにいる。
 “蓮先輩の姫”として、守られて、愛されて――幸せになれるんだ。

 風に揺れる髪を、蓮先輩の手がそっと撫でる。
 私の心はもう、何も怖くなかった。
 ただ、彼の腕の中で、温かさと安心を感じ続けていた。