総長は姫を一途に溺愛する。

教室の張りつめた空気に、胸がぎゅっと締めつけられた。
 來人くんの真剣な視線、蓮先輩の強い独占欲……。

 ――もう、耐えられない。

 思わず立ち上がり、机をかき分けて教室を飛び出した。
 廊下を駆け抜け、校舎の外へ出ると、冷たい風が頬を打つ。
 心臓が早く打ちすぎて、息が荒くなる。

 ――どうしよう……。

 來人くんの目も、蓮先輩の手も、頭の中でぐるぐる回る。
 好きになったのは……どっちなんだろう。

 校庭の端で立ち止まり、肩で息をしながら考える。
 來人は初めて会ったその日に私に告白した。真剣で、熱い気持ちが伝わる。
 でも、蓮先輩は昨日からずっと私を守り、独占しようとしてくれる。
 安心感も、温かさも、全部蓮先輩の方が大きい――。

 ――そうだ、私の心は……蓮先輩のそばにいることを望んでいる。

 涙が一筋頬を伝う。
 振り返ると校舎の窓から、來人がこちらを見つめている。
 でも、もう決めた。

 足を止め、深く息を吸う。
 心の中でつぶやいた。

「……私、蓮先輩のそばにいたい」

 その瞬間、胸の奥がじんわり温かくなり、心のもやもやが少しずつ消えていく。
 來人に悪い気持ちはあるけれど、今は蓮先輩だけを信じていい――そう思った。

 校舎裏の影から、蓮先輩の笑顔が浮かぶ。
 走り出したくなるくらい、安心して、そして胸がぎゅっとなる。

 ――私は、蓮先輩の“姫”でいいんだ。
 もう迷わない。