総長は姫を一途に溺愛する。

 放課後の教室は、誰もいない静けさに包まれていた。
 私はまだ机に座り、両手で顔を覆っている。
 來人がすぐ目の前に立ち、再び口を開いた。

「ひまり……本当に少しだけでいい、話を聞いてほしい」

 声は低く、落ち着いているのに、胸の奥をじんと刺激する。
 心臓が止まりそうになる。

「……來人くん、でも……」

 言葉を探していると、蓮先輩が一歩前に出た。
 その動きは、まるで私を壁のように守る盾のようだ。

「……何度も言わせんな。
 ひまりに近づくな」

 その腕に引き寄せられると、全身が熱くなる。
 來人は眉をひそめ、少し前に踏み出した。

「……だから、話だけだって!
 俺は本気なんだ、ひまりを――」

 蓮先輩が低く唸る。

「本気だろうと関係ねぇ。
 ひまりは俺のそばにいる――絶対に離さない」

 ぎゅっと私の手を握り、体をさらに引き寄せるその力強さ。
 來人の目がさらに鋭くなる。
 でも、蓮先輩の独占感に圧倒され、教室の空気が張りつめたまま静止する。

 私は顔を赤くし、どちらを見ればいいかわからない。
 胸の奥が痛くて、頭がぐらぐらする。

 來人は少し口角を上げ、挑戦的に言った。

「……わかった。
 でも、諦めない。ひまりの気持ちは、俺が聞く」

 蓮先輩は腕に力を込め、さらに私を自分の方に引き寄せた。

「……お前がどう言おうと、俺はひまりを守る。
 誰にも渡さねぇ」

 私はその二人の間で小さく震え、胸がぎゅうっと締め付けられる。
 視線は交わるけれど、心の中では答えが決まらず、ただ胸が痛くてたまらない。

 ――どうしよう……。
 目の前で争う二人を、私はただ見つめることしかできなかった。