教室に入り、席に腰を下ろすと、まだ手が少し震えていた。
「はぁ……落ち着け、ひまり……」
深呼吸をして、心を落ち着けようとする。
ふと、教室のドアが開く音が聞こえた。振り返ると、昨日に続いてあの少年――黒髪で鋭い瞳をした彼が立っていた。
「おはよう……」
思わず声が小さくなる。彼は無言で教室を見渡し、私の前までゆっくり歩いてきた。
「自己紹介してなかったな」
低い声。威圧感があるけれど、昨日の独占欲の余韻も残る。
「えっと……あ、私は桜井ひまりです」
小さく答えると、彼は少し微笑んだ。
「佐倉蓮。――黒薔薇組の総長だ」
総長……? その言葉に息を呑む。知らなかった、彼が学園でどれほど恐れられている存在かなんて。
「……えっ、総長……?」
思わず声が震える。背筋がぞくりとした。
彼は少し首を傾げ、低く囁いた。
「昨日、言った通り、ひまりは俺の姫だ」
思わず固まる。――え、またあの言葉……
「ひ、姫って……なんですか?」
私は小さく、でもはっきり聞き返した。
彼は少し微笑み、視線をそらさずに答える。
「俺にとって特別な存在だ。誰にも渡さないって意味だ」
その声に、胸がぎゅっと熱くなる。怖いけれど、心の奥がざわつく――守られる安心感と、逃げられない独占感が入り混じる。
「……でも、昨日はいきなり言われて、びっくりしました」
正直に言うと、彼は少し笑った。
「悪かったと思ってる。でも、俺はお前を守りたい。お前は、俺にとって大事な存在だから」
瞳が私を捉え、離そうとしない。胸の奥で、小さな熱が芽生える――
怖いけど、守られることの心地よさもあって、目が離せなくなる。
――この人から、逃げられないかもしれない……



