総長は姫を一途に溺愛する。

 放課後、教室はほとんど人がいなくなり、静かになった。
 私は机に向かい、昨日の出来事や今日の來人くんの視線を思い出して、少し心臓が落ち着かない。

 そんな時――來人くんが私の机の前に立った。

「ひまり、少し時間あるか?」

 声は昨日と同じ低くて落ち着いた響き。
 ドキッと胸が跳ねる。

「え、えっと……なに?」

 來人は少し微笑んで、真剣な目で私を見る。

「今日、放課後に一緒に出かけないか?少し話したいことがあるんだ」

 ――デ、デート……?

 心臓が跳ね上がる。
 嬉しい気持ちと同時に、昨日の蓮先輩の独占感が頭をよぎる。
 どうしよう……誘われたら行きたいけど……。

「そ、それは……」

 返事に困っていると、廊下のドアが勢いよく開いた音が響いた。

「――ひまり!」

 蓮先輩だった。
 目の奥は怒りに燃え、全身から独占欲があふれている。
 來人を見る目は、まるで獲物を睨む猛獣のようだ。

「……お前、何してる」

 低く響く声に、私は思わず口をつぐむ。
 來人も少し驚いた顔をしたけれど、すぐに冷静さを取り戻す。

「俺はただ……ひまりに放課後、話がしたくて」

 蓮先輩は鋭く前に出た。
 その距離は明らかに威圧的で、私を守るためだけのものではなく、來人に対する“侵入者排除”の意思そのもの。

「話がしたい?ふざけんな。
 ひまりに近づくな。放課後、どこにも行かせねぇ」

 ぎゅっと私の手を握り、体を自分の方に引き寄せる。
 腕の温もりに、胸がぎゅっと締め付けられる。

 來人くんは眉をひそめるけど、少し微笑んで言った。

「……なるほど、君がそういう子か。
 俺も本気で来たんだ。負けるつもりはない」

 教室の空気が一気に張りつめ、修羅場のようになる。
 私はどちらを見ればいいかわからず、両手で顔を覆いたくなる。

「……ひまり、俺の話はどうでもいい。
 お前は動くな」

 蓮先輩の低い声が、私の耳に刺さる。
 安心と緊張が同時に押し寄せて、心臓がどうにかなりそうだ。

 ――どうしよう……二人とも、目が離せない。
 でも、体が自然と蓮先輩の方に寄ってしまうのを、私は止められなかった。