総長は姫を一途に溺愛する。

 教室の空気が一瞬で張りつめた。
 來人は私の前で立ち止まり、視線を逸らさずに挑むように見つめている。
 その目に、戸惑いと緊張が混ざる。

 そして、蓮先輩が私の隣に立った。
 背筋を伸ばし、声を低く、でも全身で威圧してくる。

「お前……誰だか知らねぇが、ひまりに触れるな」

 手を伸ばして私の肩を軽く抱き寄せる。
 その腕の温かさに、思わず安心してしまう自分がいた。

 來人は少し眉をひそめ、微かに口角を上げる。

「……誰も触ろうとしてないだろ。俺はただ、ひまりに正直な気持ちを伝えただけだ」

 蓮先輩の目が鋭く光る。
 教室中のざわつきも、二人の間の張りつめた空気の前では霞むように感じた。

「正直な気持ち?ふざけんな。
 ひまりは俺の――俺の姫だ」

 低く、ぎゅっと絞り出すような声。
 その独占欲に、私は思わず耳まで熱くなる。

 來人は目を細め、しかし後退はしない。

「初めて会ったその日から、好きになったんだ。
 ……誰がどうだろうと、変わらない」

 その瞬間、私の心がぎゅっと締めつけられた。
 両方の目が私に向かっていて、どちらにも引けない。

 私は手を握りしめ、口を開く。

「……わ、私……どうしたら……」

 でも言葉は途中で止まる。
 胸の奥で、どちらの存在にも引かれている自分に気づいたからだ。

 蓮先輩は静かに、でも力強く私の手を握り直した。

「ひまりは、俺のそばにいろ。
 誰もお前を奪わせない」

 聲が低く、だけど温かく、私の耳に届く。
 來人の目がさらに真剣になり、教室の空気がさらに緊張する。

 ――どうしよう、二人とも……目が離せない。
 胸の奥がぎゅっと苦しくて、頭が真っ白になりそうになる。