朝のチャイムが鳴り、教室の空気がざわついた。

 「今日から転校生です。日神來人です。よろしく」

 扉が開き、背の高い男の子が入ってきた。黒髪で、切れ長の瞳。
 どこか冷たくて鋭い印象。なのに――なぜか、目が離せない。

 クラスの視線が一斉に彼に向く。
 私は思わず、机に手を置いたままじっと見ていた。

 すると……彼の視線が、私に止まった。

 ――ドキッ

 胸が跳ねて、顔が熱くなる。
 な、なんで……私なんかに……?

 彼は静かに教室を歩き、私の席の前で立ち止まった。
 周りのざわざわなんて、まるで遠くの音のように感じる。

「……桜井さん、だよな?」

 名前を呼ばれ、思わず息を飲む。
 どうして私の名前を……?

 小さく頷くと、彼は軽く微笑んだ。
 その笑顔は、優しいのにどこか冷たく、心臓がぎゅっと締め付けられる。

 ――こんな感覚、初めて。

 周りのクラスメイトがざわつく中、來人の視線はずっと私から離れない。
 なんだか……私だけに見られているみたいで、背筋がぞくりとした。

 でも、不思議と怖くない。
 逆に、少しだけ安心するような気もして……胸がじんわり温かくなる。

 心の中で、私は自分に問いかけた。

 ――なんで、こんなにドキドキするんだろう。

 來人はそのまま、席に座る前にもう一度私を見た。
 微かに、目が笑った気がした。

 その瞬間、私の心は小さくざわめいた。

 ――なんだか、この転校生、ただ者じゃないかもしれない……