総長は姫を一途に溺愛する。

靴を履き替えようとロッカーを開けた瞬間、胸がぎゅっと縮んだ。

 また、白い紙が入っていた。
 手に取るだけで指先が震える。

 ――文字は、昨日よりも荒れていた。

 黒いペンが紙をえぐるように走っている。

“蓮に触るな”
“気づかないふりしてるひまりちゃんが一番悪いんだよ”
“次はもっとわかりやすくするね”

 息が詰まる。
 視界がじんわり滲んで、紙が揺れた。

 私、そんなつもり、全然ないのに。
 蓮先輩には助けてもらってばかりで……触るも何も、私なんてただの後輩で。

 それでも、誰かはそれが気に入らないんだ。

 怖い。
 怖いのに、昨日の蓮先輩の腕のあたたかさが、ふと浮かぶ。
 思い出して、胸がきゅうっと苦しくなる。

 どうしよう。
 これ、また蓮先輩に言うべき……?

 でも、言ったらまた怒る。
 怒らせたくないのに、でも一人じゃ絶対に無理で。

 震える指でメモを握りしめていたら、後ろを通った女子がひそひそ声で言った。

「ねえ見た?昨日の……蓮先輩が桜井さん抱きしめてたやつ」

「見た見た。あれもう、普通に恋人でしょ」

「いや、桜井さんが狙われてるからでしょ?黒薔薇も昨日守ってたし」

「でもあれは守るってレベルじゃなかったって……」

 鼓動が跳ねた。
 耳が熱くなって、指先だけが冷える。

 ちがう。
 そんな、恋人なんかじゃない。
 でも否定しようとした口は開かない。
 なんでだろう。胸の奥がざわざわして、うまく息ができない。

 私はメモを胸に抱えて、顔を伏せたままロッカーを閉めた。

 ――蓮先輩の顔が、浮かぶ。

 すごく、会いたい。

 どうしよう。
 もう、隠せない。