総長は姫を一途に溺愛する。

蓮先輩との通話は切れた。
 数秒の静寂が、心臓の鼓動をいやでも大きくさせる。

 外から、先輩の足音が聞こえた気がした瞬間だった。

 ――ガッ。

 鈍い音がして、次に低い声が響いた。

「……おい。何してんだ、お前」

 蓮先輩の声。
 でも、私が知ってる声よりずっと鋭い。冷たい。
 まるで、感情を押し殺した刃みたいに。

 それに重なるように、誰かの気配がばっと逃げる。

 バタッ、バタッ、バタタタッ!

 足音が全速力で消えていく。

 私の胸は不安でいっぱいなのに、窓の外の蓮先輩は全く動揺していない声だった。

「逃げんな。二度とひまりの家に近づくなよ」

 それだけ言って、もう一度強く地面を蹴るような音がした。
 その重さに、逃げた誰かが完全に怖気づいたことが分かる。

 数秒後――

「ひまり」

 玄関のインターホン越しに聞こえた、私だけのための優しい声。

 急いで玄関へ向かい、ドアを開けた。

「先輩……!」

 ドアを開けた瞬間、蓮先輩が私を引き寄せた。
 強く、強く。
 息が詰まるほど抱きしめられた。

「怖かったな。もう大丈夫だ」

 耳元で囁かれる声は穏やかなのに、抱きしめる腕の力は緊張で震えている。

「ひまりに……何かあったら、俺、絶対に許さない」

 吐き捨てるような低い声。
 そのあと、ゆっくり抱きしめる腕に力が込められる。

「ひまりは俺の大事な子なんだ。離せねぇよ……」

 胸の奥が一気に熱くなり、私はかすかに先輩の胸をつかんだ。

「先輩……」

「大丈夫。俺がついてる。
 ……ひまりに触れていいのは、俺だけだ」

 ぎゅっと、さらに力を込められる。
 怖いはずなのに、この腕に包まれると胸の不安がほどけていく。

「もう家に一人でいさせない。今日だけじゃない。
 これから毎日、送ってくる」

 蓮先輩の声は、優しさと独占欲が混ざった、私だけの音だった。

「ひまりは……俺が守る」

 その言葉に、胸が強く跳ねた。