放課後のチャイムが鳴った瞬間、私は息をついた。
一日中蓮先輩につきっきりで守られていたせいで安心はあったけど、心臓はずっと落ち着かなかった。
帰ろうと鞄を持ち上げたとき――教室の入り口に蓮先輩が立っていた。
「ひまり、来て」
呼び方はいつも通り優しいのに、拒否させる気ゼロの声。
周りのクラスメイトたちは、完全に“近寄るな”の空気を察して静まり返った。
「ど、どこに……?」
「いいから」
手首を軽く掴まれる。
痛くないのに、逃げられない強さ。
蓮先輩は私を連れて、校舎の裏側へ向かった。
夕陽が差し込まない、少し薄暗い場所。
風の音と、遠くの部活の掛け声だけが聞こえる。
「蓮先輩……?」
腕を放してもらえると思ったのに、離さない。
むしろ、指の力が少しだけ強くなった。
「……今日は、離れすぎた」
「え?」
「一分でも。……ひまりから目を離すの、嫌だった」
蓮先輩の声は低くて、いつもの優しさを含んでいるのに、そこには隠しきれない苦さがあった。
「だって、メモのことがあって……不安になるだろ?」
「う、うん……でも、蓮先輩がそばにいたから——」
「それでも足りない」
思わず息がつまる。
蓮先輩が一歩だけ近づいてきて、影が重なる。
「ひまりを守れるの、俺だけでいい」
その言葉は甘くて、でも少し怖かった。
でも、その怖さが……なぜか胸を締めつけるほど嬉しかった。
「……あの、蓮先輩。そんなに心配しなくても」
「心配するに決まってる」
返事が早い。
私の言葉の上を静かに覆い隠すみたいに、迷いなく。
「ひまりのロッカーを開けたのは、誰か分からない。
廊下で見てたやつもいた。
……それ全部聞いたら、みんな怖くなるだろ?」
確かに、背中を冷たいものが撫でた。
蓮先輩は、私の頬にそっと触れた。
人差し指が、涙の跡を探すみたいに。
「ここ……朝、少し赤かった」
「えっ!? 見てたの……?」
「見てた。全部」
その一言に胸がぎゅっとなる。
蓮先輩は私の手を握り、指を絡めてぎゅっと握り込む。
逃げられない距離。
でも、逃げたくない距離。
「ひまり」
「……はい」
「絶対に、俺から離れないで」
声が、迷いなく私に縛りつく。
「離れんなよ。どこにも」
その瞬間、校舎裏の空気が甘く沈みこんで、
私はただ頷くことしかできなかった。
「……うん」
「よし」
蓮先輩はようやく微笑んだ。
その笑みがあまりにも綺麗で、苦しいほど優しかった。
「送る。今日も家まで」
その手は、もう離さなかった。
一日中蓮先輩につきっきりで守られていたせいで安心はあったけど、心臓はずっと落ち着かなかった。
帰ろうと鞄を持ち上げたとき――教室の入り口に蓮先輩が立っていた。
「ひまり、来て」
呼び方はいつも通り優しいのに、拒否させる気ゼロの声。
周りのクラスメイトたちは、完全に“近寄るな”の空気を察して静まり返った。
「ど、どこに……?」
「いいから」
手首を軽く掴まれる。
痛くないのに、逃げられない強さ。
蓮先輩は私を連れて、校舎の裏側へ向かった。
夕陽が差し込まない、少し薄暗い場所。
風の音と、遠くの部活の掛け声だけが聞こえる。
「蓮先輩……?」
腕を放してもらえると思ったのに、離さない。
むしろ、指の力が少しだけ強くなった。
「……今日は、離れすぎた」
「え?」
「一分でも。……ひまりから目を離すの、嫌だった」
蓮先輩の声は低くて、いつもの優しさを含んでいるのに、そこには隠しきれない苦さがあった。
「だって、メモのことがあって……不安になるだろ?」
「う、うん……でも、蓮先輩がそばにいたから——」
「それでも足りない」
思わず息がつまる。
蓮先輩が一歩だけ近づいてきて、影が重なる。
「ひまりを守れるの、俺だけでいい」
その言葉は甘くて、でも少し怖かった。
でも、その怖さが……なぜか胸を締めつけるほど嬉しかった。
「……あの、蓮先輩。そんなに心配しなくても」
「心配するに決まってる」
返事が早い。
私の言葉の上を静かに覆い隠すみたいに、迷いなく。
「ひまりのロッカーを開けたのは、誰か分からない。
廊下で見てたやつもいた。
……それ全部聞いたら、みんな怖くなるだろ?」
確かに、背中を冷たいものが撫でた。
蓮先輩は、私の頬にそっと触れた。
人差し指が、涙の跡を探すみたいに。
「ここ……朝、少し赤かった」
「えっ!? 見てたの……?」
「見てた。全部」
その一言に胸がぎゅっとなる。
蓮先輩は私の手を握り、指を絡めてぎゅっと握り込む。
逃げられない距離。
でも、逃げたくない距離。
「ひまり」
「……はい」
「絶対に、俺から離れないで」
声が、迷いなく私に縛りつく。
「離れんなよ。どこにも」
その瞬間、校舎裏の空気が甘く沈みこんで、
私はただ頷くことしかできなかった。
「……うん」
「よし」
蓮先輩はようやく微笑んだ。
その笑みがあまりにも綺麗で、苦しいほど優しかった。
「送る。今日も家まで」
その手は、もう離さなかった。



