翌日の放課後。
私は蓮に呼び出され、校門前で待ち合わせをしていた。

「ひまり、来い」
蓮の声は相変わらず低くて落ち着いていて、聞くだけで心臓が反応する。

「ど、どこに行くんですか……?」
「黒薔薇組のアジト。
……姫を正式に迎える準備ができてる」

姫。
昨日から何度も聞いたその言葉に、胸がじわりと熱くなる。

校門の外に出ると、黒いバイクの前に数人の男子が立っていた。
見たことのあるメンバーだ。みんな、蓮の仲間――黒薔薇組。

「総長! 姫、連れてきたんすね」
「写真よりかわいいじゃん」
「ちょ、こら失礼だぞ! 姫さんだぞ!」

ひえっ……と心の中で悲鳴を上げる。
初対面なのに“姫”って当然のように呼ばれてる。

蓮は私の肩に手を置き、低く言った。

「ひまりは俺の姫だ。
……お前ら、変なこと言うなよ」

その声音が少し冷たくて、周囲の空気がピリッと張り詰めた。

「へ、変なことなんて言いませんって! 姫さん、よろしくお願いします!」
「あの……ひ、姫じゃないです……」
「いいんだよ! 姫なんですから!」
「そうそう。総長の選んだ女なんだから、姫以外ねぇよ!」

め、めちゃくちゃ認定されてる……。

アジトに連れていかれると、黒薔薇組のみんなが一斉に立ち上がった。

「総長、お疲れっす!」
「姫、どうぞこちらへ!」
「お茶とか出しますんで!」

お茶……!?
ヤンキーのイメージが完全に崩壊してるよ……!

蓮は当たり前のように私の腰に手を回し、椅子へ誘導した。

「ひまり、ここ座って。俺の隣な」
「あ、はい……」

座った瞬間、蓮が私の髪に触れた。
ほんの一瞬の仕草なのに、胸がどきっとする。

「お前ら、ひまりのことは絶対に大切に扱え。
……傷つけたりしたら、俺が許さない」

「当然っす! 姫さんのことは命かけて守ります!」
「姫の敵は俺らの敵っすから!」

口々にそう言われて、私はまた顔が熱くなる。

こんなの……普通じゃないのに。
でも、嫌じゃない。
むしろ――安心する。

蓮がそっと手を握ってきた。
その手に力がこもり、声が低く落ちる。

「ひまり、ここにいる限り安全だ。
俺の仲間は……全員、お前の味方だから」

「……はい」

答えた瞬間、蓮が嬉しそうに目を細めた。

「これでやっと言える。
……ひまりは黒薔薇組の姫だ」

怖いのに、甘くて、胸の奥がじんわり温かい。

私はその言葉を否定できなかった――
もう、逃げられない。
でも、そんな自分に少しだけ安心している自分がいた