蓮と歩く夜道は、さっきまでより静かだった。
街灯の光がぽつん、ぽつんと並んでいて、ふたりの影が長く伸びる。

手は、まだ繋がれたまま。
温かくて、離れそうにない。

「……蓮先輩、あの……家まで本当に送らなくても……」

おそるおそる言うと、蓮は無言で私の手をぎゅっと握り直した。

「送る。
ひまりを一人で歩かせるなんて、ありえない」

即答。
その声に、胸がまた跳ねる。

「でも……明日も学校で会えるのに……」

「明日会えるのと、今日の夜ひとりで歩くのは別だろ」

蓮は少しイラッとしたように眉を寄せる。
怒っているわけじゃない。
ただ――独占したいだけ。

その表情が、怖いのに、どこか安心するから不思議だった。

「ひまりの家、こっちで合ってるよな?」

「えっ……なんで……」

思わず立ち止まる。
どうして蓮が私の家の方向なんて知ってるの?

蓮は少しだけ口元を緩めた。

「調べた」

その一言に、背筋がぞくりとした。

「ちょ、調べ……」

「ひまりが朝どの道を歩くかくらい、見てれば分かる」

見てれば……?
さらっと言ったけど、それってつまり――。

「……毎朝見てたんですか?」

「当たり前だろ。
俺の姫がどこ歩いてるのかも知らない総長がどこにいる」

心臓が跳ねた。
怖いのに、胸の奥が熱い。

蓮はためらいなく、私の頭を軽く撫でた。

「ひまりは、俺が送る。
何があっても、俺が守る」

その声は、闇の中でやけに優しく聞こえた。

家の角を曲がると、自分の家の玄関灯が見えてくる。
明かりがついていて、家族が帰りを待っているのが分かった。

「ここまででいいです……」

小さく呟くと、蓮は一歩だけ近づき、私の髪を指でそっとすく。

「じゃあ、俺が帰るまで……玄関の前から動くな」

「えっ……なんで……?」

「ひまりを最後まで見ていたい」

夜風が吹く中で、彼の声だけが熱い。
胸がきゅっとなる。

「……おやすみ、ひまり」

その言い方が優しすぎて、足がすくんだ。

蓮は私が玄関に入るまで、本当にずっと見つめていた。
扉を閉める直前、ふと視線が合った気がして、心臓が跳ねる。

扉が閉まった後も、しばらく動けなかった。
怖いのに、安心する。
独占されているのに、胸が甘くなる。

――ひまりは俺の姫だ。

蓮のその声が、耳から離れないまま、私は胸を押さえて深く息を吸った。