部活や委員会で遅くなり、校門を出た頃には、すっかり空は藍色に沈んでいた。
街灯がぽつぽつと灯り、夜風が少しだけ肌を撫でる。
――早く帰らなきゃ。

そう思って歩き出した瞬間、背後から誰かの気配がした。

「……ひまり」

振り返ると、薄闇の中に蓮が立っていた。
制服の上着を肩に掛け、黒髪が風に揺れる。
夜の光を受けた瞳は、昼よりもずっと鋭くて――少しだけ、怖い。

「れ、蓮先輩……どうしてここに……?」

蓮は答えず、ゆっくり歩み寄ると、私の手首をそっと掴んだ。
強いけれど、乱暴ではない。その手に、心臓が跳ねる。

「遅かった。迎えに来た」

「み、迎え……? わ、私、連絡してないのに……」

「ひまりがどこにいるかぐらい、俺が知らないわけないだろ」

その言葉に、背筋がぞくりとする。
怖い。でも、どこか甘い。守られている安心と、逃げられない独占の重さが一気に押し寄せる。

蓮は私の手を引き、校庭の奥へ連れていく。
夜の学園は静かで、誰もいない。
薄暗い街灯の下、二人だけの空間に閉じ込められたみたいだった。

「ひまり、一人で歩くな。危ない」

「でも、蓮先輩にも予定が……」

「俺の予定より、ひまりの方が大事だ」

即答する声が低くて、胸が熱くなる。

蓮は私の頬に触れ、じっと見つめてくる。
夜風で少し冷たくなった指先が、仄かに震えた私の頬を包んだ。

「ひまりは……俺の姫だ。
誰が何と言おうと、守るのは俺の役目だ」

「そ、そんな……大げさです……」

「大げさじゃない。俺のものを守るのは当然だ」

その言葉が、柔らかく、でも重く心に落ちる。

蓮は私の手を自分の胸元に引き寄せて、ぽつりと呟いた。

「……怖い顔、してる?」

「い、いえ……少し……緊張してるだけで……」

「ならいい。ひまりが俺のことを怖がるのは嫌だ。
でも、他の男に触れられる方が、もっと嫌だ」

そう言って、蓮は私の指を絡めるように握り直した。

――独占欲が強い。
でもその中には、まっすぐすぎるほどの愛情が詰まっている。

「帰るぞ。……俺の姫」

夜道を歩きながら、握られた手は優しくて、離れられないほど温かかった。
怖さと甘さが混ざり合って、胸の奥で静かに広がる。

――私は、いつの間にかこの人の独占に、甘く囚われ始めているのかもしれない。

蓮の横顔は、月明かりに照らされてとても綺麗だった。