……こんなときこそ、わたしの出番でしかな・い・よ・ね!
「千雪、ここはまかせるね・っ!」
「えっ、姫妃ちゃん?」
機器室を飛び出たわたしは、大急ぎで階段を駆け下りると。
そのまま海原君たちの前を突き抜けてから、舞台の中央で。
「キャ〜ッ!」
全力で無駄に叫ぶという。
人生で一度くらい、思いっきりみんなの。
……『なにこれ?』を感じてみた。
「どうも! 司会の波野姫妃で・す!」
どうしよう!
この『なんなの?』みたいな・か・ん・じ。
まるで冷め切った目の月子が何百人もいる感じが、ちょっと楽しい!
「ねぇ、いい加減。明日卒業式だから、準備はじめません?」
いや、それじゃないだろうみたいな。
書類を組み間違えたときの玲香何百人分の視線を、わたしは集めると。
「いや、でもね……」
さすが陽子、ありがとう!
客席とのやり取り、期待してた・の・っ!
「あぁ〜、生徒会の件。曖昧なままで・す・ね?」
ここにいるみんなは、いま。
……『大切なこと』を忘れている。
いや、ひょっとしたら知らないだけかもしれない。
でもそんなことは、どちらでも構わない。
とにかく、わたしはね。
どれだけ『なんだコイツ?』と思われたって平気。
だってね、わたし。
たとえ会場中が、敵になったとしても。
わ・た・し・は・ね。
……海原昴の、味方なの。
「生徒会設立、したいんですよ・ね?」
みんなの視線が、わたしに集まる。
「でもいきなりは、無理で・す・よ」
えっ、なにそれって思ってくれていい。
「だって前回知ったんですけど。準備するのって、すっごい大変なんですよ」
……あのね、海原君はね。
「だ・か・ら。その準備の続きからはじめても、いいですか?」
……『会長』には、ならないんだよ。
生徒会なんて、せっかく作っても。
海原君以外の『誰かが』続けてくれなければ意味がない。
それに彼はね、本当はね。
なにかの代表ばかりするのは……『独裁者』になるから嫌なんだよ。
「な・の・で。未来につなげるための、時間をください!」
……お願い、きちんと仕組みは作るから。
「そのあとはぜひ。き・ち・ん・と、選挙をしましょう!」
……それが終わったら、どうかお願い。
……海原君を、『自由』にしてあげて。
……わたしの目の前で。姫妃の、昴君への好きがあふれている。
「れ、玲香?」
「あの……玲香ちゃん?」
わたしはいま。
姫妃の本気を見せつけられて、ふたりの手首をつかんでいる。
「で、どうするの。月子?」
……わたしが、あなたのかわりにやってもいいんだよ。
姫妃を見て、ひるんでいるような場合ではない。
それくらいの意図と覚悟は……。
いい加減伝わっているんだよね?
やっと『らしさ』が戻りつつあった月子が。
「ごめんなさい玲香。あなたには譲れない」
小さな声だけれど。
まっすぐわたしを見てそう答える。
「ま、別にいいよ。『こっちは』譲ってあげる」
「よくわからないけれど……譲らないときは、どれも譲らないわよ」
「わたしも……月子のいう意味がよくわからない」
これ以上は、いま争ってもしかたがない。
「それよりほら、ふたりの出番だよ!」
ただ、なにもせずに。
ひとりポツリと立たされるのは、ごめんなので。
「わたしに、ついてきて!」
「ちょっと、玲香!」
「えっ、玲香ちゃん?」
驚くふたりたりの、手首を引っ張ると。
ステージの中央で。
小さくても大きく輝いている、姫妃の元へと。
……『わたしも一緒に』、歩きだした。
……ここはわたしが、『どうぞ〜』ってやりたかった・の・に・っ!
海原君と月子が。
玲香に引っ張られて、きちゃった・の・っ!
「もう玲香、呼んでからにし・て・よ!」
「姫妃、悪ノリしすぎ」
珍しいことに、ちょっとだけヤケになった感じの玲香が。
「みなさん、赤根玲香です」
たったひとことで、全員の注目をわたしから奪うと。
「『生徒会設立準備委員会』設立の件、ご賛同の折は拍手でお示し願います」
いきなり漢字だらけのセリフを、スラスラ口すると。
採決をはじめだす。
「少し拍手が不足していて、成立しそうにありません」
おまけに、すごい……。
さりげなく、あおっちゃってる・し!
「全員一致ではありませんが、賛成多数と認めます」
玲香は続いて。
「準備委員会会長と副会長は。この二名でよろしいですか?」
もう一回みんなに拍手させて。
「加えて放送部員が。ふたりのサポートに入りますが、よろしいでしょうか?」
でも……そっか。
微妙に省略しながらだけど。
きちんと、『手続き』を踏んでいるつもりなんだ。
「できれば……秋までには第一回選挙を、お願いできるかしら?」
さすがだ・ね!
寺上校長も理解して、援護射撃をしてくれて。
「はい、しっかり準備しますので、みなさんもご協力お願いします」
玲香はそう答えてから、客席をぐるりと見渡すと。
「ここまでなにか、異議などございませんでしょうか?」
同意の拍手を、きちんともらってから。
「お時間をありがとうございました。それでは卒業準備に入りましょう!」
そうやって、あっというまに。
予想外にはじまった、『緊急動議』をまとめあげてしまった。
在校生たちが、それぞれの持ち場に移動をはじめると。
玲香がわたしに近づいて。
「姫妃。フィナーレを奪った、ごめん」
なんだか気持ち悪いくらい、素直なことを口にする。
しかたがないので。
「いいよ玲香、なんか格好よかっ・た!」
せっかく、ほめてあげたのに。
「でも……よくあんなことやるよね」
うわっ、なんか微妙に失礼なこといってない?
「助かったわ、玲香」
月子も珍しく、素直に感謝したのに。
「助けたのは、頭からっぽな姫妃だから」
えっ……。
「わたしは無口な女と鈍い部長のかわりに頭を使っただけ」
うわっ……。
なんなの、玲香?
続いて、無敵モードの玲香は。
ひきつった顔の月子なんて無視すると。
「それになにかあっても……由衣と千雪もいるからね」
深い意味は、ないのだろうけれど。
「さすがに四人もいれば、『わたし並み』には動けるでしょ」
そういって、わたしたちを見ると。
「ここまで……なにか文句ある?」
平然と、そういい放った。
……なんだか、珍しい光景を見た気がする。
はたから見れば感激の余り、みたいな光景だろうけれど。
それとはちょっと、違う雰囲気だよね。
「海原君、なにしてるの?」
「あぁ、春香先輩。珍しいですよね」
よくわからないけれど、無敵モードの玲香に。
月子が怒りを爆発させるかと思ったら、抱きしめてしまって。
あとから由衣と千雪が加わって。
「で、玲香が締めあげられてるの?」
「はい。あと、その中に波野先輩も紛れてますよ」
「ふーん」
……放送部ってやっぱり、よくわからないや。
「そうそう、海原君。勝手に進めてて、ごめんね」
「春香先輩こそ、色々ありがとうございました」
鈍感だからなのか、やさしいからなのか。
海原君はそれ以上は、気にならないみたいで。
「それより、『報告』にいきませんか?」
「えっ、いいの?」
「もちろんです」
ただ、前よりはちょっぴり……成長したのかもしれない。
みんなで校庭に出ると、『カエデの木』に向かっていく。
以前生徒会設立を熱心に取り組んでいた『寺上かえで』を記念したその木には。
すでにかえで先輩の親友の、佳織先生と響子先生。
それに先輩の母親で、校長でもある寺上つぼみ先生がいて。
三人で熱心に手を、合わせていた。
「かえでが、『おめでとう』だって」
「あと、『卒業式の準備よろしく』って」
「『生徒会の準備も、抜かりなく』だそうよ」
どう考えても、先生たちの願望が入っているけれど。
「あなた、なにかいいなさい」
月子にうながされた、無敵モードの玲香が今度は。
「先生がたも、きちんと手伝いましょう」
ピシャリとそういうと。
「先に戻ります」
そういって、ひとりで歩きだした。
「そういえば玲香ちゃん、たまにスイッチ入るんですよね」
海原君は、そこまではわかるのに。
「でも、なんできょうは入ったのかな……」
やっぱり肝心なことは……わからない。
本当は、そのとき海原君が。
『振り向いたら』、少しはわかったはずだ。
玲香の背中だけを見ていた君を見る、ほかの女子たちの視線は。
まぁ……『卒業』した『部外者』のわたしからしたら。
本当に面倒くさすぎるくらい、海原君だけを見ていたので。
わたしは、なんというか……。
先生たちと目を合わせて。
苦笑いするくらいしか……できなかった。

