朝から、あやめの生活は少しずつ変わってきていた。


学校に行く準備をしていると、キッチンから陽太が声をかける。

「はい、お嬢様。今日の弁当な!」

手渡された弁当箱を開けると、彩りの良いおかずがぎっしり。

「えっ……すごい。こんな豪華なの……」

「当たり前だろ。栄養バランス考えたんだからな!」

陽太はツンと横を向いたが、耳がほんのり赤い。

「……嬉しい」

その一言で、陽太は一瞬固まる。

「……っ、べ、別に……喜ぶなら、まあ……いいけど!」

(はぁ……可愛い。次男なのに兄っぽい……)



放課後、家に帰ると家の中が驚くほどきれいだった。

「蒼真……今日も全部掃除してくれたの?」

蒼真はモップを持ちながら、少しだけ頷いた。

「……気づかないくらいが、いい掃除」

「気づいたよ? すごく綺麗で……気持ちいい」

蒼真の動きが一瞬止まった。

「……良かった」

無口だけど、嬉しそうなのが伝わってくる。



夜、海斗がスケジュール帳を片手に声をかけてきた。

「朝比奈様、今週の予定をまとめました。無理のないよう調整済みです」

「えっ……全部やってくれたの?」

「当然です。お嬢様には安心して生活していただきたいので」

海斗の優しい視線に、あやめの心はじんわり温かくなる。



そして……夜のハプニング

あやめはコップに入れた水を持ちながら廊下を歩いていた。

その瞬間。

「……あ」

ちょうど向こう側の部屋から、
次男・陽太が出てきたところだった。

上半身、タオルでざっくり拭きながら……
鍛えられた腹筋、腕の筋肉が少し光って見えた。

「えっ……!」

あやめの足が止まる。

陽太も「うわっ」と驚いた顔をしてタオルを胸元に寄せた。

「わ、悪い! 今出ると思ってなくて……!」

「い、いやっ……私こそ!」

陽太の体温と石けんの香りがふわっと漂って、顔が一気に熱くなる。

(なにこれ……男子って、こんな……)

陽太の心臓がバクバクしているのが分かるほど近い。

「ご、ごめん……! わざとじゃ……」

「……別にいいけど」

男子の低い声が余計に胸がドキドキした。

そこへ長男・海斗が階段から降りてきた。

「……何かありましたか?」

「な、なにも!!」

二人同時に答え、海斗が呆れたように微笑んだ。

「お風呂あがりは気をつけてください。……特に陽太」

「し、仕方ないだろ!」


その夜、布団に入ったあやめはずっと考えていた。

(男の子と一緒に住むって……こんなにドキドキするんだ……)