翌朝。
まだ空が白くにじむ時間、あやめはふと目を開けた。

……いや、開けさせられた。

耳元で響く、容赦ない声。

「お嬢様、起床時間です!」

次男・陽太がカーテンを一気に開け、眩しい光が差し込んだ。

「ま、まぶしい……!」

布団に潜り込むあやめを、陽太は容赦なく揺らす。

「七時だぞ! 朝ごはん冷めちゃうって!」

「うぅ……あと五分……」

「ダーメ。ほら、起きて!」

その後ろで、長男・海斗が静かに腕を組んでいた。

「陽太、あまり強引にするとお嬢様が驚きます。……朝比奈様、おはようございます」

その声は低くてやさしくて、布団の魔力を弱らせる。

「……お、おはようございます……」

そこに四男・律が顔を出した。

「おはようございます、あやめさん。朝ごはんの後に、昨日の復習を少しだけしましょう」

甘くて柔らかい声。
寝起きの頭に染みる。

三男・蒼真は無言で窓の取っ手を直し、空気の入れ替えをしていた。
ただそこにいるだけで頼もしい存在感。

五男・優真は、トレーを抱えて近づいてくる。

「おはよ〜。お水持ってきたよ。無理しなくていいけど、ちょっと飲むと目覚めるよ」

小動物みたいな笑顔。
これにはあやめも負けた。

「……起きます……」

五人の表情が一瞬で明るくなる。

「よしっ!」「よかった」「無理しないでね」「朝は大事だからね」「準備できたら呼んで」

……朝から騒がしいけど、にぎやかで、どこかあったかい。

────────

朝食のテーブルには、陽太の作った和朝食。

「はい、お嬢様。卵焼きは甘めにしてみた」

「こっちは蒼真が切った漬物。形きれいすぎない?」

五男・優真が言って、蒼真が少しだけ照れる。

律が食卓を見渡しながら笑う。

「今日の授業は数学がメインですよね。放課後に復習しましょう」

「うん……ありがとう」

食事を終えると海斗が立ち上がった。

「そろそろお時間です。送迎はできませんが、玄関までお見送りします」

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制服に着替えて玄関に向かうと、五人が横に並んだ。

ドラマよりカッコいいんだけど……!!

「行ってらっしゃい、お嬢様」(長男・海斗)

「困ったらすぐ連絡しろよ!」(次男・陽太)

「帰りは俺がドア開ける」(三男・蒼真)

「気をつけて。放課後、一緒に勉強しましょうね」(四男・律)

「がんばってね〜、あやめちゃん」(五男・優真)

五つ子の視線に見送られ、胸がじんわりあたたかくなる。

ひとりで出ていく家じゃない。
帰る場所に誰かがいる…そんな当たり前を初めて知った朝だった。