五人が家に来て最初の夜。
リビングの空気は、今までの静かな家とはまったく違っていた。

テーブルの上には、あったかい料理の匂い。
次男の陽太が手際よく仕上げた夕食は、レストランみたいに華やかだった。

次男・陽太が腕を組んで得意げに言う。

「あやめ。もうカップ麺禁止な
これからは三食、俺がちゃんと作るから」

た、頼もしすぎる……!

その横で長男の海斗がノートを開く。

「本題に入ります。今後の共同生活のために、簡単なルールを決めましょう
お嬢様の負担を減らすため、必要最低限だけで大丈夫です」

生活ルール……なんだか本当に執事みたい。

長男・海斗が読み上げていく。

一、起床時間は朝七時。次男・陽太が声をかけます
二、食事は朝・昼・夜の三回、料理担当が準備
三、学校関連は四男・律が全面サポート
四、家事全般は五男・優真が行います
五、家の警備と掃除は三男・蒼真が担当
六、お嬢様は無理をしないこと

最後の一つに、あやめは胸がきゅっとする。

無理をしないこと……

海斗が柔らかく視線を向けた。

「お嬢様はまだ十六歳です。ひとりで背負う必要はありません
これからは、私たちがそばにいますから」

その言葉が、家全体をじんわり温かくした。

────────

食事が始まると、あやめは目を丸くした。

ふわふわのハンバーグに、彩りの良い野菜。
スープまで優しい味で、身体がほっとする。

……こんな美味しいご飯、久しぶり。

次男・陽太がニカッと笑った。

「そんな嬉しそうに食べられたら、作りがいあるだろ」

五男・優真が紅茶をそっと置いた。

「あやめちゃん、今日よく頑張ったね
初日だし、疲れてない?」

その声は甘くて、包み込まれるようだった。

四男・律は学校の話を聞きながら、メモを取っている。

「明日の小テスト、対策しておきますね
一緒にやれば大丈夫ですよ」

三男・蒼真は静かに食器の位置を整え、さりげなく気配を消しているのに……
なぜか一番近くに感じる。

五人が自然と支えてくれる空気に、あやめの胸がほんのり熱くなった。

────────

夜、片付けが終わった頃。
リビングにいた五人が、あやめに向けて揃って頭を下げた。

「今日からどうぞよろしくお願いします、お嬢様」

まるでドラマみたいな光景。

でもその瞬間、確かに思った。

一人で静まり返った家とはもう違う。
明日からの毎日が、少し楽しみになる。

こんな気持ち、いつぶりだろう。