侵入者の脅威が去り、
朝比奈家にようやく静かな日常が戻ってきた。

夕方のリビングでは、
五人が珍しく全員ソファに座ってくつろいでいた。

海斗はあやめの勉強スケジュールを見直し、
陽太はキッチンから甘い匂いを漂わせ、
蒼真はソファの影で猫を撫で、
律は静かに紅茶をいれて、
優真はあやめの髪に付いた糸くずを取ってくれている。

あやめはその光景を見て、
胸にぽっと灯りがともるような気持ちになった。

(ああ……守られるためだけじゃなく、
私はこの人たちと一緒にいるのが好きなんだ)

そんな時だった。

「……あやめ様。一つ、お聞きしてもよろしいですか」

海斗の静かな声がリビングに落ちた。

「これから……私たちはどうやって、あなたのそばにいればいいのでしょう。
任務としてではなく、一人の人間として」

陽太が照れくさそうに頭をかきながら言う。

「おれたちさ……もう仕事とか関係なく、
お前のこと、大事に思ってんだよ」

蒼真は視線をそらしながら、かすかに呟く。

「……離れたいなら、言って。
でも……離れたくないけど…」

律は優しい笑みを浮かべて、
あやめの手にそっと触れた。

「僕たちはあなたの選択を尊重します。
好きでそばにいたいだけですから」

最後に優真が、胸に手を当てて言う。

「ねぇ……あやめちゃん。
ぼくたちの中で誰か一人だけ選ぶとしたら誰が好き?」

あやめは驚き、そして笑った。

「……みんな、ずるいよ。
そんな……選べないよ」

五人が一緒に息を呑む。

「ねぇ、海斗。陽太。蒼真。律。優真」

あやめはゆっくりと五人を見つめた。

「私は誰か一人だけじゃなくて……
五人と一緒にいたい。
五人のいる家に帰ってきたい。
笑って、喧嘩して、甘えて……
そういう毎日がいいの」

リビングに静かな空気が流れた。

そして次の瞬間…

海斗
「……その言葉を、どれだけ待ったことか」

陽太
「はっ……マジでお前らしいな」

蒼真
「……よかった」


「では、これからも毎日甘やかしますね」

優真
「大好きだよ、あやめちゃん」

五つ子が同時に微笑む光景は、
あやめの胸をぎゅっと締めつけるほど眩しかった。

(この人たちとなら……ずっと笑っていられる)

その日の夜。

家にはいつもより大きな笑い声が響き、
あやめは初めて知った。

家族でも恋愛でもない、
でも確かに愛しい五人との関係があることを。

そしてその中心には、
いつも自分がいることも。

これからも一緒に生きていく。
五人全員と。
五人全員を好きなままで。

そんな温かくて不思議な日々が始まった。

おわり。