朝のダイニング。

あやめがトーストに蜂蜜をかけていると、
優真がふわっと微笑みながら近づいた。

「はい、あやめちゃん。ナイフ貸して」

「ありがと、優真」

蜂蜜を塗り替えてくれる手つきが優しくて、
思わず見とれてしまう。

そこへ——

「おい、優真。近すぎない? 朝からベタベタしすぎ」

次男・陽太が割り込んできた。

「別にいいじゃん。あやめちゃんが嫌って言わないなら」

「……は? 嫌じゃねーけど、そういう問題じゃねぇし」

あ、陽太のツンデレスイッチが入った。

優真は涼しい顔で笑った。

「陽太兄、やきもち?」

「は!? しねぇよ!!」

耳が赤い……完全に嫉妬してる。


学校から帰ったあやめがソファに座ると、
三男・蒼真が無言で隣に来て、
あやめの髪に小さな埃を見つけて取ってくれた。

「……ついてた」

「ありがと、蒼真」

それだけで心臓が跳ねる。

そこへ律が登場し、にこやかに言った。

「蒼真くん、距離が近いですよ。
あやめさんが照れてしまうじゃないですか」

「……別にいい」

「よくありません。僕も隣に座りたいので」

律がすぐ横に座り、
あやめの肩にそっと触れた。

「今日、学校どうでした?
疲れてませんか? マッサージしてあげますよ」

「律やさしい……」

蒼真がわずかに眉を動かす。

「……触りすぎ」

「では蒼真くんも、どうぞ?」

「……しない」

(この二人、静かにケンカしてる……)


夕飯準備を手伝っていると、
陽太があやめの袖を軽く引いた。

「お嬢、これ味見してみ? うまくできたか不安でさ」

「ん、美味しい!」

その瞬間、空気が変わった。

長男・海斗が腕を組み、
静かに陽太を見つめていた。

「……陽太。
素手であやめに味見をさせるのは衛生上良くないです」

「え、別にいーだろ?」

「よくありません。
あなたは距離感が近すぎる。
あやめが困っていると、気づかないのですか」

「いや困ってねぇだろ!? なぁ、あやめ」

「え、えっと……?」

海斗がスッと近づき、
あやめの耳元で低く言う。

「嫌なら、言ってくださいね。
僕は、あなたが誰かに触れられると……あまり良い気はしない」

(海斗の嫉妬、静かだけど深すぎる……!)

陽太と海斗の間に、
ピリッとした空気が走った。


夜、あやめが自室に戻ろうとすると、
五男・優真が廊下で待っていた。

「ねぇ……今日さ」

「うん?」

「みんな……すごかったね」

「たしかに……」

優真は指先であやめの髪をそっと触れた。

「ぼくも本当は……ずっと嫉妬してたよ」

「えっ……」

「でも、あやめちゃんが困ると嫌だから言わなかっただけ」

「……優真」

「ねぇ……ぼくにも、ちゃんと見ててほしい」

その言葉は、他の誰より甘かった。

(どうしよう……
本気でみんな、私のこと好きなんじゃ……?)

どの兄弟も離れがたい。
それが一番困るのは、きっと自分だ。

あやめは胸を押さえて、小さく息をついた。

「……選べないよ、こんなの」

五人の気持ちが重なり始め、
物語はゆっくり恋の中心へ向かって動き始めていた。