不審者騒動の翌朝。
あやめがリビングに降りると、五人が勢ぞろいしていた。

「おはよう……みんな、早いね?」

次男・陽太がニッと笑う。

「だって今日は、お前の気分転換デーだからな!」

「あ、あの……気分転換デー?」

四男・律がやわらかく説明する。

「昨日のことがありましたからね。
みんなで何か楽しいことをしたくて……」

そこへ長男・海斗がスケジュール表を開いて、淡々と告げた。

「本日は学校の休暇日。
お嬢様の心身の回復を最優先し、全員で温泉旅行に行くことに決めました」

「お、温泉旅行……!?」

思わぬ提案にあやめは固まった。

五男・優真がうきうきしながら近づく。

「露天風呂付きのお宿〜! 夜は花火も見れるんだよ!」

三男・蒼真は無表情ながら、ほんの少し目の端が嬉しそう。

「荷物、もうまとめた。……あと、警備も完璧」

なんて有能なの……。



あやめがふと口にした。

「ねぇ……友達を一人だけ呼んでもいいかな……?
美桜って子なんだけど…女の子と話せたら落ち着くし……」

次男・陽太が即反応。

「お、おい。誰呼ぶんだよ?」

律は優しく微笑む。

「もちろん構いませんよ。
あやめさんの安心が第一ですから」

海斗も頷いた。

「旅館と部屋数は調整済みです。
追加の一名は問題ありません」

蒼真が短く言う。

「……その子の分も、安全確認しておく」

優真は手をたたいて喜ぶ。

「わぁ、楽しみが増えた〜!」

(……五人とも、ほんとに優しい……)

あやめはスマホを取り出し、
仲の良い友達・美桜にメッセージを送った。

『今日、温泉行かない?』

すぐに返信が来る。

『行く!!! 何それ楽しすぎ!!』

(良かった……)


出発の時間。五人のテンションが凄かった…

玄関でスーツケースを準備する五人。

陽太
「よしっ! 今日は絶対楽しませるからな!」


「お嬢様、車酔いしないようにお水も用意しました」

優真
「お菓子もいっぱい持ってきた〜!」

蒼真
「……後部座席、日差し入らないようにしておいた」

海斗
「安全運転で向かいます。ご安心を」

(なんだろう……旅行というより、修学旅行の引率みたい……)

そして車に乗り込むと、
美桜も途中でピックアップして参加。

「やば……何このイケメン集団……!!
あやめ、説明して!!」

「ちょ、あとで話すから!」

美桜の驚きで、車内はすぐに明るい空気になった。


温泉旅館へ到着…

大きな門をくぐると、
山の上にある落ち着いた和風旅館が姿を現した。

川の音、木の匂い、風の涼しさ
全部が心をほぐしてくれる。

「すごい……綺麗……!」

陽太があぐらをかきながら自慢げに言う。

「当然だろ。俺たちが選んだんだからな!」

律は穏やかに説明する。

「ここは露天風呂が三つもあって、お料理も有名なんですよ」

優真がくるっと回って、

「夜は手持ち花火しよ〜!」

蒼真がさりげなくあやめの肩へタオルを乗せる。

「風、冷たい。……気をつけて」

海斗はフロントでチェックインを済ませ、

「皆さま、荷物はこちらでお運びします」

完璧すぎる。

(ああ……やっと、ほのぼのな時間に戻れた……)

胸の奥にあたたかい空気が流れ込んでいく。



美桜
「ねぇねぇ! 露天風呂行こ!! あやめ!!」

あやめ
「う、うん……!」

五つ子はそれぞれ別行動のはずなのに、
なぜか露天風呂の近くで待機しているらしい(陽太情報)。

温泉の湯気に包まれながら、
あやめはふと思った。

(この旅行……絶対忘れないだろうな)