侵入者が窓を叩き割ろうとした瞬間、
三男・蒼真が庭へ飛び出した。
続いて陽太、律、優真が持ち場につき、
家の中には一瞬の静寂が落ちる。
海斗はあやめを優真に預け、静かに告げた。
「お嬢様を頼みます。……私は追います」
「海斗……危ないよ!」
「あなたを守るためです。
私たちは、これ以上逃がすわけにはいきません」
その言葉とともに、海斗の瞳から執事の優しさが消えた。
完全な護衛の顔だった。
海斗が外に出ると、庭に夜風が強く吹いていた。
黒い影がフェンスの向こうへ飛び越えようとしている。
海斗は迷わず駆け出した。
「待ちなさい。……あなたの目的は分かっています」
侵入者は振り返り、フードの奥で不気味に笑ったように見えた。
言葉は返ってこない。
代わりに、手にした細い金属器具をこちらへ向けて構える。
カチッ。
ピシッ!!
地面がほんのわずかに火花を散らした。
陽太が叫んだ通り、それは窓用の特殊工具。
触れれば皮膚ごと裂ける危険なものだった。
しかし海斗は怯まない。
「……あなたの雇い主は誰です?」
返事はない。
代わりに侵入者は走り出した。
海斗が追う。
舗装された路地を曲がり、薄暗い坂を駆け下りる。
月明かりが追跡の影を映し出す。
「逃がしません」
追い詰めた角で、侵入者がふいに足を止めた。
海斗も構えをとる。
「君は……その手の振り。足の運び。
……まさか、あの時の雪城家の残党か?」
フードの奥で、侵入者の肩が小さく揺れる。
(あの時……?)
海斗の脳裏に走るのは、
雪城家が過去に追われ、壊されかけたあの事件。
そして、その事件から救い出してくれたのが
他でもない 朝比奈あやめの母 だった。
海斗は敵をにらみつけて問いかけた。
「なぜ朝比奈グループを狙うのか?
雪城家への恨みか……それとも単純に金か?」
また沈黙。
だがその時、侵入者はポケットから何かを取り出した。
ピッ。
小さな端末が光った途端
周囲の街灯が一斉に明滅し、煙が上がった。
「しまった……!」
海斗が飛びかかった瞬間、
侵入者の姿は煙の向こうへかき消えてしまった。
完全に逃げられた。
煙が薄れた時、地面にひらりと一枚の紙が落ちていた。
海斗が拾い上げる。
そこには
手書きの字で、はっきりとこう書かれていた。
『人質:朝比奈あやめ』
海斗の眉がわずかに震えた。
「……朝比奈あやめお嬢様を狙っている」
それは、疑いではなく確信。
海斗は紙を強く折りたたみ、胸に押し込んだ。
「必ず守る。……あの時のように、誰も何も失いたくない」
三男・蒼真が庭へ飛び出した。
続いて陽太、律、優真が持ち場につき、
家の中には一瞬の静寂が落ちる。
海斗はあやめを優真に預け、静かに告げた。
「お嬢様を頼みます。……私は追います」
「海斗……危ないよ!」
「あなたを守るためです。
私たちは、これ以上逃がすわけにはいきません」
その言葉とともに、海斗の瞳から執事の優しさが消えた。
完全な護衛の顔だった。
海斗が外に出ると、庭に夜風が強く吹いていた。
黒い影がフェンスの向こうへ飛び越えようとしている。
海斗は迷わず駆け出した。
「待ちなさい。……あなたの目的は分かっています」
侵入者は振り返り、フードの奥で不気味に笑ったように見えた。
言葉は返ってこない。
代わりに、手にした細い金属器具をこちらへ向けて構える。
カチッ。
ピシッ!!
地面がほんのわずかに火花を散らした。
陽太が叫んだ通り、それは窓用の特殊工具。
触れれば皮膚ごと裂ける危険なものだった。
しかし海斗は怯まない。
「……あなたの雇い主は誰です?」
返事はない。
代わりに侵入者は走り出した。
海斗が追う。
舗装された路地を曲がり、薄暗い坂を駆け下りる。
月明かりが追跡の影を映し出す。
「逃がしません」
追い詰めた角で、侵入者がふいに足を止めた。
海斗も構えをとる。
「君は……その手の振り。足の運び。
……まさか、あの時の雪城家の残党か?」
フードの奥で、侵入者の肩が小さく揺れる。
(あの時……?)
海斗の脳裏に走るのは、
雪城家が過去に追われ、壊されかけたあの事件。
そして、その事件から救い出してくれたのが
他でもない 朝比奈あやめの母 だった。
海斗は敵をにらみつけて問いかけた。
「なぜ朝比奈グループを狙うのか?
雪城家への恨みか……それとも単純に金か?」
また沈黙。
だがその時、侵入者はポケットから何かを取り出した。
ピッ。
小さな端末が光った途端
周囲の街灯が一斉に明滅し、煙が上がった。
「しまった……!」
海斗が飛びかかった瞬間、
侵入者の姿は煙の向こうへかき消えてしまった。
完全に逃げられた。
煙が薄れた時、地面にひらりと一枚の紙が落ちていた。
海斗が拾い上げる。
そこには
手書きの字で、はっきりとこう書かれていた。
『人質:朝比奈あやめ』
海斗の眉がわずかに震えた。
「……朝比奈あやめお嬢様を狙っている」
それは、疑いではなく確信。
海斗は紙を強く折りたたみ、胸に押し込んだ。
「必ず守る。……あの時のように、誰も何も失いたくない」

