「おれ、肉が食いたいんだけど」

「しょうがないでしょ。うち、びんぼうだし」



女優だったうちのママは、私が小学三年生の頃に亡くなった。

ママは、稼いだお金をボランティア団体に寄付していたから、ママの貯金はすずめの涙だ。



「あーあ。父さんがだまされて、あやしいつぼとか置物とか買わなきゃな」

「しかたないよ。ママの病気が治るようにって、パパも必死だったんだから」



ママのことが大好きだったパパは、まんまと霊感商法ってやつにはまってしまった。



「まあ、あの頃の父さん、不幸続きだったもんな」



たとえば、階段から落ちて全治三か月のけがを負ったり。


パパが社長を務めていた芸能事務所がつぶれたり。


たぶん、ママのことで頭がいっぱいだったパパが、うわの空だったことが原因だと思う。

だけど、


「ふがいないお父さんで、ごめんなあ……」


泣きながらあやまられると何も言えなくなる。

だってパパは、ママのことを本気で心配していただけだから。



「うん。私たちのために、朝から晩まで働いてくれてるし。いいパパだよね」

「だな」



生活によゆうがあるわけじゃないけど、不幸なわけじゃない。

アオと話しながら、のんびり歩いていると、