『ひなね、大きくなったら女優さんになる!』



というのが私、東雲(しののめ)ひなこのこどもの頃の口ぐせ。

だけど十二歳になった私は、現実ってやつを知ってる。

いくらママが伝説の女優でも、その子供まで特別な才能を持っているわけじゃない。

だから今の私が口にできる夢は、


「晩ごはんはハンバーグがいいなぁ」


ってことくらい。

これは、叶えられちゃう。

なんてったって、我が家のシェフは私だから。



日曜日の住宅街は、おだやかな時間が流れてる。

さんぽ中のゴールデンレトリバーも、ぽかぽか陽気に目を細めてる。



「とか言って、どうせ豆腐ハンバーグでしょ?」

「あたり。名探偵だね、アオ」

「さっきスーパーで、たくさん豆腐買ってたじゃん」



弟のアオは小学三年生。

朝からスーパーを三軒はしごしたからか、おつかれモードみたい。

両手に持ったエコバックからは、一束九九円のネギがのぞいている。