◆ ◆ ◆
「人多いですね。前歩きますね、危ないんで」
自然と前に立ち、雑踏から守ってくれる大山さん。
大きな背中にぴったりのリュック。 私の少し前を歩き、店を探してくれる。
夕食は軽く済ませ、夜からおしゃれカフェへ。
「ここの緑のタイル使いとプリン……苦めコーヒーの色味、全部最高です!」
「ビジュ良すぎですよね。シマさんのタイプだと思ったんですよ」
仕事帰りのサラリーマンが、シャツをまくりあげて
鍛えた腕をぴくぴくさせながら一生懸命スイーツを撮っている。
(ヤマさんって、本当にかわいいワンちゃんみたいな人だったんだな……)
思わず、その姿に見惚れてしまう。
「……シマさん、今ちょっと笑いましたよね」
「見てたんですか?」
「見ますよ。隣にいるんだから」
恥ずかしくて目を逸らすと、大山さんはこちらをニヤニヤ覗き込む。
「今日は俺のこと可愛いって言わないんですね」
からかったのをやり返される。
(可愛い……反則だ……)
そしてスマホを差し出して、今撮った写真を見せてくれた。
「この角度の写真……あれ、思い出しまんか?えーとなんだっけ……」
会社では見せないような、興奮した様子で人差し指を振る。
「一緒にやったお菓子会社さんとのコラボTですよね!私も思ってました!」
「そうですそれです! ハハハ!」
――初めて、大山さんが声を上げて笑った。
「わー! シマさんよく分かりましたね!」
「あれ自分でも気に入ってたので」
「シマさんのデザインの中でもトップクラスにかっこいいと思ってました」
大山さんは今まで見たことのないような優しい口調と笑顔を向けてくれる。
「あ、ありがとうございます」
(こんな素敵な笑顔になれる人だったなんて、知らなかった……)
彼は一度下を向き、急に感嘆したような目でこちらを向いた。
「『素敵なもの』を共有できる人がいるって、かなり貴重で、ありがたいです」
「確かにそうですね」
この人が、ここまで温かい表情をむけてくれる日が来るなんて。
本当に、奇跡みたいな毎日がもらえるなんて、思ってもいなかった。
プリンを頬張る大山さんを見て、心がざわめく。
(あの日、屋上でヤマさんを見たとき……本当に心配で、怖くて、全身が震えた。
息ができないくらい苦しくて、どうしようもなかった。
……ヤマさんも、あの日、立てなくなった私を見て、気遣ってくれてるのかな。
あんなに仕事を断れないお人好しだから、弱っている私を放って置けないのかも……)
「お! もう9時半になっちゃいますね」
スマートウォッチを見ると、彼のテンションがぱっと切り替わる。
(まだ9時半……まだ終わりたくないのに……)
「それじゃあ駅向かいましょうか」
「はい」
「シマさんが駅近のお家でよかったですけど、本当に夜道気をつけてくださいよ」
「はい」
大山さんは線引きがきっちりしていて、必ず早めに帰る。
お酒も飲まず、深く踏み込まない。
初日、私が先に断ったら、その後は送ろうか聞かれることもなかった。
駅の改札を通り、違う路線へ進む。
彼の背中が小さくなるたび、胸の奥がひりつく。
私だけ、取り残されたような気分になる。
彼はただ、助けてくれているだけ。
私を「困っていて、手を差し伸べなきゃいけない人」くらいにしか思っていない。
――そんなこと、分かっているのに。
優しさが身に沁みるたび、心がふわりと揺れる。
そして、つい期待してしまう自分がいる。
夜の風に混じる人々の声。
遠くの明かりに照らされる駅前。
終わらない街の夜に後ろ髪をひかれながら、私は電車に乗って家路につく。
「人多いですね。前歩きますね、危ないんで」
自然と前に立ち、雑踏から守ってくれる大山さん。
大きな背中にぴったりのリュック。 私の少し前を歩き、店を探してくれる。
夕食は軽く済ませ、夜からおしゃれカフェへ。
「ここの緑のタイル使いとプリン……苦めコーヒーの色味、全部最高です!」
「ビジュ良すぎですよね。シマさんのタイプだと思ったんですよ」
仕事帰りのサラリーマンが、シャツをまくりあげて
鍛えた腕をぴくぴくさせながら一生懸命スイーツを撮っている。
(ヤマさんって、本当にかわいいワンちゃんみたいな人だったんだな……)
思わず、その姿に見惚れてしまう。
「……シマさん、今ちょっと笑いましたよね」
「見てたんですか?」
「見ますよ。隣にいるんだから」
恥ずかしくて目を逸らすと、大山さんはこちらをニヤニヤ覗き込む。
「今日は俺のこと可愛いって言わないんですね」
からかったのをやり返される。
(可愛い……反則だ……)
そしてスマホを差し出して、今撮った写真を見せてくれた。
「この角度の写真……あれ、思い出しまんか?えーとなんだっけ……」
会社では見せないような、興奮した様子で人差し指を振る。
「一緒にやったお菓子会社さんとのコラボTですよね!私も思ってました!」
「そうですそれです! ハハハ!」
――初めて、大山さんが声を上げて笑った。
「わー! シマさんよく分かりましたね!」
「あれ自分でも気に入ってたので」
「シマさんのデザインの中でもトップクラスにかっこいいと思ってました」
大山さんは今まで見たことのないような優しい口調と笑顔を向けてくれる。
「あ、ありがとうございます」
(こんな素敵な笑顔になれる人だったなんて、知らなかった……)
彼は一度下を向き、急に感嘆したような目でこちらを向いた。
「『素敵なもの』を共有できる人がいるって、かなり貴重で、ありがたいです」
「確かにそうですね」
この人が、ここまで温かい表情をむけてくれる日が来るなんて。
本当に、奇跡みたいな毎日がもらえるなんて、思ってもいなかった。
プリンを頬張る大山さんを見て、心がざわめく。
(あの日、屋上でヤマさんを見たとき……本当に心配で、怖くて、全身が震えた。
息ができないくらい苦しくて、どうしようもなかった。
……ヤマさんも、あの日、立てなくなった私を見て、気遣ってくれてるのかな。
あんなに仕事を断れないお人好しだから、弱っている私を放って置けないのかも……)
「お! もう9時半になっちゃいますね」
スマートウォッチを見ると、彼のテンションがぱっと切り替わる。
(まだ9時半……まだ終わりたくないのに……)
「それじゃあ駅向かいましょうか」
「はい」
「シマさんが駅近のお家でよかったですけど、本当に夜道気をつけてくださいよ」
「はい」
大山さんは線引きがきっちりしていて、必ず早めに帰る。
お酒も飲まず、深く踏み込まない。
初日、私が先に断ったら、その後は送ろうか聞かれることもなかった。
駅の改札を通り、違う路線へ進む。
彼の背中が小さくなるたび、胸の奥がひりつく。
私だけ、取り残されたような気分になる。
彼はただ、助けてくれているだけ。
私を「困っていて、手を差し伸べなきゃいけない人」くらいにしか思っていない。
――そんなこと、分かっているのに。
優しさが身に沁みるたび、心がふわりと揺れる。
そして、つい期待してしまう自分がいる。
夜の風に混じる人々の声。
遠くの明かりに照らされる駅前。
終わらない街の夜に後ろ髪をひかれながら、私は電車に乗って家路につく。
