崖っぷち女子は屋上で拾ってくれた年下上司とスイーツ革命中

◆ ◆ ◆

半透明のドーム席に通されると、思わず息を呑んだ。

「わあ……!」

ソファに腰を下ろすと、大山さんがドリンクを手に戻ってきた。
私の前には、ストロベリーソーダに白猫型のゼリー、星形のパイナップルとチェリーが散りばめられている。

大山さんのグラスには、青いソーダにリボン型の氷とハート型のグミが入っていた。
「並べて写真、撮っていいですか?」
「それ、普通は女子が言うやつですよね……ワラワラ」
「俺の趣味です。ほっといてください」

いつも無表情な人が、いろんな角度からスマホをかざしてはしゃいでる。
(猫キャラだと思ってたけど、しっぽ振ってる大きなわんちゃんみたい……)

思わず大山さんごとこっそり写真を撮る。
「すみません、面白くてつい一緒に撮っちゃいました……」
「……別にいいですけど」
微かに頬が赤い気配。

(嬉しそう……?)

「かわいいもの見てるヤマさんも、かわいいですね!」
からかうように言うと、「やめてくださいよ〜」と耳まで真っ赤にする。

普段なら人を茶化すことなんてできないのに、なぜか大山さんには自然にできてしまった。
胸の奥がふわりと浮くような感覚に包まれた。

「もしかして、ヤマさんのSNSでこういう写真、あげてるんですか?」

「始めたいんですけど……俺みたいなのが向いてないかなって」

「私に写真、見せてもらえますか?」
恐る恐る差し出されたスマホの画面には、光と色のバランスが美しい写真が並んでいた。


「こんなに上手に撮るって、本当に気持ちがないとできないことです。絶対、やってください」
「デザイナーさんにそんなふうに言われるなんて……ありがとうございます」
恥ずかしそうに俯き、リボン型の氷を指でつつく大山さん。

どこか子どもみたいで思わず笑ってしまう。

胸の奥に小さな波紋が広がり、ふわりと温かさが満ちる。

「まるで夢の中……映画みたいです……こんな世界、本当にあるんだ」
「現実ですよ。しっかりしてください」
いつもの冷淡な声が響く。

──この甘さの中で冷静に突っ込むなんて、頭が追いつかない。

「こういう場所を現実に作って運営してる人たちがいるんです。
 シマさん、忙しすぎて見えてなかったと思いますが、

 弊社のデザイナーにこそ、こういう現実を知ってほしかった」
真正面から正論が飛んできた。


「……ほんと、その通りですね」
ストロベリーソーダの中の星が光って見えた。
「本当は私、旅行や遠くまで行って見るような本当に楽しい世界のものを、こっち側で作りたかったんです」
大山さんは静かに私を見つめ、耳を傾けてくれていた。

今までの後悔が押し寄せ、両手で顔を覆う。
「とにかく急いで、上の命令通りのものを作るんじゃなくて、

 みんなの意見を聞き、夢中になれる企画をやりたかった……

 七年も思ってただけで、何もできなかった」
言葉が堰を切ったように溢れ、深いため息とともに落ちる。

「ご……ごめん、シマさんを追い詰めたわけじゃないんです」

ぽんぽん、急にヤマさんの大きな手が、私のうなだれた肩を撫でてくれた。
「やっぱり想像以上に、本当に悩んで、頑張って、あんなすごい仕事してたんですね」

大山さんが予想外の甘い表情でこちらを見つめている。

緊張で固まっていると「おっと失礼」と言って、そそくさと手を離す。

「シマさんのデザイン、ずっと売上トップでしたよね。

 他社コラボだって一番持ってましたし。もっと自信持ってください」
真剣な声に胸の奥がふわっと揺れる。


「俺が言いたかったのは……
 最近、世界も人生も、急に何が起こるかわからないと思って。
 だから俺が、変わらなきゃと思ったんです」
大きく息を吸い、静かに続ける。
「これからは、自分の楽しいこと、大切なことを最優先する生活に変えたいって」
「……ヤマさんがそんなこと考えてたなんて」
身を乗り出すと、話に身体ごと引き込まれる。
「勝手に言って申し訳ないけど、
屋上で泣きそうな顔してたシマさん見て……

 “多分この人も必要だな”って思ったんです。――この“大切なこと優先革命”」

息が止まりそうになる。

「……ごもっともです」
大山さんの視線がゆっくりと私の手に重なる。

「じゃあ。よかったら――俺の遊びに、しばらく付き合ってくれませんか?」

「はい!」

「じゃあ、革命団結成ってことで」
キラキラひかるドリンクで乾杯した。

極上の天空カフェでの、極上の提案。

胸の奥で小さな星が光りはじめた。

……乗らない理由なんて、どこにもなかった。