崖っぷち女子は屋上で拾ってくれた年下上司とスイーツ革命中

◆ ◆ ◆

その日は、会社に着いた瞬間、空気が違っていた。
社長室前の廊下に、スーツ姿の男性たちが並んでいる。

誰一人笑わず、資料だけを静かに抱えていた。
「外部評価らしいですよ……」

始まった会議は容赦がなかった。
「このライン、売れる気しないね」
「原価が高いよ。どうするつもり?」
(……息が苦しい)
社長は笑っているだけ。誰も守ってくれない。
そのとき。
「原価率の件ですが」
空気を割るような低い声が、背後からした。

振り向くと、大山さんが立っていた。
「原価は確かに高いですが、それを補って余りある出来になります。
 K工場さんの強みを生かしたこのラインは、お客様の支持を得ています」
淡々とした説明なのに、どこか強さがあった。
はっきりと“私をかばっている”とわかった。

「……あなたは?」
「生産管理部 本部長の大山です」
「へぇ、生産管理がデザインをここまで理解してるとはね」
皮肉に近い言葉にも彼は揺れず、静かに告げる。
「デザインと生産が噛み合えば、売れます。
 昨年の統計では、この企画ラインは五億以上の売上を出しています」
《……五億?》
会議室が一瞬静まり返る。
社長でさえ言葉を失っていた。

結局、会議は「検討継続」で終わった。
否定されなかっただけで、涙が出そうになるほど安心した。

◆ ◆ ◆

会議後。
 

私は思わず、彼の背中を追っていた。

「ヤマさん……さっきは、本当にありがとうございました」
「いえ。事実を述べただけです」
そっけないのに、耳が赤い。
「でも、私——」
「デザインチームを守るのも、僕の仕事ですから」
その横顔がやけに頼もしくて、胸が熱くなった。
(仕事だけでも……理解してくれる人がいてくれてありがたいな)

そんな風に、毎日は忙しなく続くと信じていた。
——まさか、すべてが壊れる日が迫っているとは知らずに。