「でも──あの日。
会社の倒産がわかった後、屋上で俺の気持ちがふっと揺らいだ瞬間に、
現れたのがシマさんで」
喉がつまる。
「幻覚かなってくらい嬉しかったです。
やっぱりこの人が俺をこっちの世界に引き戻してくれるんだって。
運命なのかなって、思いました」
また、とめどなくあふれてくる涙を、大山さんは切なげに見つめる。
「そこのつながりもちゃんとお話ししておきたくて。長い片思いの前置きもあったので」
会社にいた頃のヤマさんを思い浮かべると、胸が苦しくなる。
「あの日、シマさんが来なかったら、シマさんじゃなかったら……」
「そんなこと言わないでください」
泣きじゃくる私を笑わせようと、彼は少しおどけて言った。
「好きな人が“イケメン”って叫んでくれたから、世界が一気に明るくなったんですよ」
「私は“クールビューティー”って言ったんですけど」
泣き笑いすると、大山さんは優しく抱き寄せた。
「その後に“イケメン”とも言ってましたよ!!」
彼の腕の中で、二人頬を寄せる。
「あの時、蓋してた分も全部、恋焦がれてた気持ちが溢れ出て──
シマさんが変えてくれたんです。
今までの行動でダメなら、好きなものへの気持ちを全開にしようって気持ちに。
あの時、人生の内側と外側を、ガラッと全部入れ替えるスイッチを押したみたいでした」
「すごい……そんなことを考える大山さんがすごいです」
「そうは言っても、弱ってる時に手を出したくない、と思ったり、
三品さんとの方がいいんじゃないかとか思って、全然全開にできなかったですけど」
「何とも思われていないかもって落ち込んでました」
「いえいえ、嫌われ者だった俺の嫉妬というか、
スイッチ変えても、しばらくは自信のなさが結構出ちゃってました」
腕や背中をさすってくれる、彼の手が温かい。
「会社の終わりの方も、避けられてるのかと思ってました……」
「そんなことしないです。俺がうまくできなくてごめんなさい。
むしろ助けてもらったのは、本当にこちらの方だったので、絶対避けるわけないです!」
大山さんの心臓の音と一緒に、言葉が身体中に響いてきた。
「少しずつ変わって、今日、まさに抑えてた気持ちが全部溢れ出てきちゃいましたね」
彼が言っていた「革命」が、自分の人生も変えてくれたのだと実感して、胸が熱くなる。
「……シマさん、リアって呼んでいい?」 「はい」 「一緒に……進んでいきませんか」
震えるほど真剣な声だった。
「仕事も、生活も、気持ちも。ゆっくりでいいから。
リアと一緒にやっていきたい。
勝手に守るんじゃなくて……ちゃんと隣で」
目に、再び涙がにじむ。
大山さんはその涙を指でそっと拭い、やわらかく笑った。
「リアを一人にしないって。約束します」
「……はい……」
答えた瞬間、頬にキスが落ち、額同士が静かに触れた。
「帰りたくないですね」
「……帰りたくないです」
「でも今日は家までちゃんと送ります。絶対今日は手を出さないので安心してください」
「そうなんですか?」
「ゆっくり、本当にちゃんと……末長くリアと恋愛していきたいので」
彼は照れながら手を握り直してくれた。
二人はまた寄り添い、静かな夜の公園に身を預けた。
離れがたい夜。
でも確かに──この瞬間から、二人の未来は動き始めていた。
