崖っぷち女子は屋上で拾ってくれた年下上司とスイーツ革命中

◆ ◆ ◆

月曜日の朝。
アパレル企業の定例会議は、いつも通り地獄のように始まった。

「この案、全部三日で仕上がるよね!来月には店頭に出したいのよ〜!」
社長の甘い声に、会議室の空気が凍りつく。

《誰が三日でやるのよ》

《工場、絶対回らないってば》
目をそらす全員の心の声が聞こえるようだった。

「リアちゃんならできるよね!」
「……やってみます」
「大山くん、工場確保よろしく!」
「当たってみます」
淡々とした低音が落ちる。

生産管理部 本部長・大山修司。
現場にも数字にも強く、社長の無茶ぶりにも決してひるまない。
社内では私と並んで “二大巨頭” と噂される人物だ。

《大山と大島のせいで、なんでも早くできると思われてホント迷惑》
《あの二人いないと会社が回らないのも事実だけどさ》

同僚たちの視線が刺さる。賞賛、嫉妬、羨望が混ざった雑音。

(聞こえないふりしよ……)
そんな視線すら、もう胸に刺さらなくなっていた。

仕事は裏切らない——そう信じていた。

◆ ◆ ◆

 十八時。
デザインラフをすべて仕上げた瞬間、声がかかる。
「シマさん。少しお時間いいですか」
穏やかな低音。大山さんだ。
「ヤマさん、そろそろ来ると思ってました」

私たちは、お互いを“大”を省いた呼び方で呼んでいる。
一年前、彼が昇進した頃は、私も「本部長」と呼んでいた。
でも、『過度な気遣いはご無用です』と穏やかに笑い、彼からこの呼び方を提案してくれたのだ。

「工場は……K社しか押さえられませんでした。クオリティはギリギリですが」
「大丈夫ですよ。K社さんの品質に合わせてデザインできます」
 そう言った瞬間、大山さんの目がわずかに揺れた。
「……助かります」
普段は絶対に聞けない、弱い声音だった。
(この鉄仮面みたいな人でも、こんな表情するんだ)

「こちらこそ。ヤマさん、今日は早く帰ってくださいね」
「……では、お言葉に甘えて」
踵を返す彼にかぶせるように、専務の声が響く。

「大島ちゃ〜ん! 今日も残るのか?」

「残りまーす!」

「戸締まり頼んだぞー!」

「任せてください!」

「大山くんは帰るからな!」

「はい、失礼します」
 専務に連れられて帰っていく背中を見送りながら、ふと胸が軽くなる。

(……私、仕事に救われてるんだな)