待ち合わせ場所に着くと、思わず声を失った。
大山さんは、夏の陽射しに負けない鮮やかなアロハシャツに、サングラス姿だった。
こちらはアロハにタイトスカート、ポニーテールにサングラスで……
「俺ら丸かぶりですね……」
「合わせてきたみたいですね。私、着替えてきましょうか?」
「いや、むしろこっちのほうが似合ってますよ」
駐車場に入ると、レトロ映画に出てきそうなヴィンテージカーが待っていた。
「これですか?」
思わず笑いがこぼれる。
大山は胸を張って自慢げに言った。
「夏なんで! 思いっきり楽しみたくて、借りてきちゃいました」
「えー! 絶対高いですよね?!大丈夫ですか?」
「給料爆上がりしたんで平気ですよ」
二人で笑い転げる。
呆れつつも、懐かしい感覚が胸にじんわり広がった。
運転席に乗り込んだ大山さんの腰あたりで、金属がチャリっと鳴った。
視線を落とすと、私が手作りサイトで販売したキーホルダー。
色褪せながらも大切に使われていた。
「あの……購入してくださってたんですか?」
「匿名だったからわからなかったでしょ? 実は使わせてもらってました〜」
サングラスを少し下げ、横目でニッと笑うその表情に、胸の奥が静かに熱を帯びる。
海沿いの道を走りながら、大山は鼻歌まじりで尋ねる。
「シマさん、最近どうしてる? 元気だった?」
「バイトしながら、アクセ作ってます。少しずつ売れ始めました」
「そっか……本当によかった!!」
安心したように微笑む彼に、私も自然と表情がゆるむ。
潮風がふわりと流れ込み、髪が揺れた。
海の幸が美味しい店でランチをとり、今日の“目的地”について話す。
「今から行くところで、思いっきり車の写真撮っていい?」
「もちろん! そのつもりです」
着いたのは、海辺のアメリカンダイナー。
ウキウキした大山さんと一緒に撮影会をしていると、過去のカフェ巡りが自然と蘇る 。
(可愛いスイーツも、ワイシャツを捲り上げて夢中で撮ってたな……)
ひと段落してアイスコーヒーを飲みながらゆっくり話す。
空白だった時間は自然と埋まっていった。
「前おっしゃってたSNS、始めました?」
「はい。それでプレスの仕事が決まったんですよ。
よかったらフォローしてください」
彼の華やかな投稿を眺めて、やっぱり似合う世界だと思う。
胸の奥でじんわり誇らしさが広がった。
「すごくいいですね! こんなキラキラの世界に行けて本当によかったです!」
「ありがとう。そんなこと言ってくれるの、シマさんだけだったので」
少し照れた笑顔に、胸の奥がふわりと温かくなる。
テラスに出ると、海沿いにウッドデッキが伸びていて、ベンチとブランコが並ぶ。
小さなベンチに並んで腰かけると、潮風が肌を撫で、波の音が耳に心地よい。
「……シマさん」
低く落ち着いた声に、息が止まる。
「ずっと言えてなかったことがあるんです」
大山さんの瞳は真剣で、どこか切なげだった。
「本当はずっと応援してました。
連絡しなかったのは……今、頑張りどころで、邪魔したくなかったんです」
胸の中心に、ため息のように優しい痛みが貫く。
(……そんなふうに、思ってくれてたんだ)
周囲の社員が次々と転職先を決める中、私だけがバイトを選び、立ち止まっていた。
自分の生き方を考えるために、ゆっくり進む時間を選んだのだ。
言葉が出ないまま、大山さんは続ける。
「仕事のときも、倒産してからも……落ち込んでるのも、全部わかってました。
その弱ってるところに漬け込むのも嫌でしたし。
シマさんのデザインも、勉強してる姿勢もすごいので、
それを持って、やりたいことに向かっている間は、ただ見守りたかったんです」
胸の奥の迷いが、少しずつ溶けていく。
“大山さんは、ずっとわかってくれていた”――その確信が静かに広がる。
隣に並ぶ腕と腕が触れそうな距離。
顔を上げると、唇までほんの数センチしかない。
(やっぱり……ただの上司じゃない)
心の奥で、線がはっきりとつながった。
――今こそ、ちゃんと話したい。
そう思った瞬間、大山さんはふっと視線を逸らした。
「……送ります。もう夕方だし」 (え……帰っちゃうの?)
立ち上がる彼は、背伸びしながらぽつりと漏らす。
「……本当は、このまま泊まっちゃいたいくらいだなあー」
「私も」
「……でも、今日はやめておきます。さ、帰りましょう」
毎日見てきた、あの冷静な表情に戻っていた。
――ほんとうは、抑えている。 その小さな気配が、逆に胸を締めつける。
私も立ち上がる。
彼の横顔が夏の光ににじみ、胸の奥にひとつ決意が固まる。
一緒に並んで歩く。
触れそうで触れない手。
潮風と波音に包まれ、短い帰り道をゆっくり進む。
(このままじゃ終われない。話さなきゃ
――今度こそ。感謝と、諦めきれない気持ちを)
胸の奥で、言葉がじんわり沸き上がる。
足音が波のリズムに混ざり、夏の夕暮れが二人を包んでいた。
大山さんは、夏の陽射しに負けない鮮やかなアロハシャツに、サングラス姿だった。
こちらはアロハにタイトスカート、ポニーテールにサングラスで……
「俺ら丸かぶりですね……」
「合わせてきたみたいですね。私、着替えてきましょうか?」
「いや、むしろこっちのほうが似合ってますよ」
駐車場に入ると、レトロ映画に出てきそうなヴィンテージカーが待っていた。
「これですか?」
思わず笑いがこぼれる。
大山は胸を張って自慢げに言った。
「夏なんで! 思いっきり楽しみたくて、借りてきちゃいました」
「えー! 絶対高いですよね?!大丈夫ですか?」
「給料爆上がりしたんで平気ですよ」
二人で笑い転げる。
呆れつつも、懐かしい感覚が胸にじんわり広がった。
運転席に乗り込んだ大山さんの腰あたりで、金属がチャリっと鳴った。
視線を落とすと、私が手作りサイトで販売したキーホルダー。
色褪せながらも大切に使われていた。
「あの……購入してくださってたんですか?」
「匿名だったからわからなかったでしょ? 実は使わせてもらってました〜」
サングラスを少し下げ、横目でニッと笑うその表情に、胸の奥が静かに熱を帯びる。
海沿いの道を走りながら、大山は鼻歌まじりで尋ねる。
「シマさん、最近どうしてる? 元気だった?」
「バイトしながら、アクセ作ってます。少しずつ売れ始めました」
「そっか……本当によかった!!」
安心したように微笑む彼に、私も自然と表情がゆるむ。
潮風がふわりと流れ込み、髪が揺れた。
海の幸が美味しい店でランチをとり、今日の“目的地”について話す。
「今から行くところで、思いっきり車の写真撮っていい?」
「もちろん! そのつもりです」
着いたのは、海辺のアメリカンダイナー。
ウキウキした大山さんと一緒に撮影会をしていると、過去のカフェ巡りが自然と蘇る 。
(可愛いスイーツも、ワイシャツを捲り上げて夢中で撮ってたな……)
ひと段落してアイスコーヒーを飲みながらゆっくり話す。
空白だった時間は自然と埋まっていった。
「前おっしゃってたSNS、始めました?」
「はい。それでプレスの仕事が決まったんですよ。
よかったらフォローしてください」
彼の華やかな投稿を眺めて、やっぱり似合う世界だと思う。
胸の奥でじんわり誇らしさが広がった。
「すごくいいですね! こんなキラキラの世界に行けて本当によかったです!」
「ありがとう。そんなこと言ってくれるの、シマさんだけだったので」
少し照れた笑顔に、胸の奥がふわりと温かくなる。
テラスに出ると、海沿いにウッドデッキが伸びていて、ベンチとブランコが並ぶ。
小さなベンチに並んで腰かけると、潮風が肌を撫で、波の音が耳に心地よい。
「……シマさん」
低く落ち着いた声に、息が止まる。
「ずっと言えてなかったことがあるんです」
大山さんの瞳は真剣で、どこか切なげだった。
「本当はずっと応援してました。
連絡しなかったのは……今、頑張りどころで、邪魔したくなかったんです」
胸の中心に、ため息のように優しい痛みが貫く。
(……そんなふうに、思ってくれてたんだ)
周囲の社員が次々と転職先を決める中、私だけがバイトを選び、立ち止まっていた。
自分の生き方を考えるために、ゆっくり進む時間を選んだのだ。
言葉が出ないまま、大山さんは続ける。
「仕事のときも、倒産してからも……落ち込んでるのも、全部わかってました。
その弱ってるところに漬け込むのも嫌でしたし。
シマさんのデザインも、勉強してる姿勢もすごいので、
それを持って、やりたいことに向かっている間は、ただ見守りたかったんです」
胸の奥の迷いが、少しずつ溶けていく。
“大山さんは、ずっとわかってくれていた”――その確信が静かに広がる。
隣に並ぶ腕と腕が触れそうな距離。
顔を上げると、唇までほんの数センチしかない。
(やっぱり……ただの上司じゃない)
心の奥で、線がはっきりとつながった。
――今こそ、ちゃんと話したい。
そう思った瞬間、大山さんはふっと視線を逸らした。
「……送ります。もう夕方だし」 (え……帰っちゃうの?)
立ち上がる彼は、背伸びしながらぽつりと漏らす。
「……本当は、このまま泊まっちゃいたいくらいだなあー」
「私も」
「……でも、今日はやめておきます。さ、帰りましょう」
毎日見てきた、あの冷静な表情に戻っていた。
――ほんとうは、抑えている。 その小さな気配が、逆に胸を締めつける。
私も立ち上がる。
彼の横顔が夏の光ににじみ、胸の奥にひとつ決意が固まる。
一緒に並んで歩く。
触れそうで触れない手。
潮風と波音に包まれ、短い帰り道をゆっくり進む。
(このままじゃ終われない。話さなきゃ
――今度こそ。感謝と、諦めきれない気持ちを)
胸の奥で、言葉がじんわり沸き上がる。
足音が波のリズムに混ざり、夏の夕暮れが二人を包んでいた。
