三品さんとのディナーは——思っていたより、ずっと普通だった。
(思い出話と、「あのデザインよかったね」くらいしか話すことがなかった…)
彼は目を細め、にこやかに笑いながら言った。
「色々と話せて嬉しかったです!
これからは会社や仕事関係なく、たまにご飯や飲みいきましょうー」
長年携わった仕事の一区切りの中で、こんなふうに誘ってもらえるなんて
——ありがたく、自然と微笑む。
帰り道の夜風に吹かれながら、スマホを一瞬だけ確認する。
大山さんからの通知は、一つもない。
胸の奥に、ちくりと痛みが走った。
(……なんで、期待してるんだろう、私)
ベッドに潜り込み、心を落ち着ける。
眠りに落ちたのは、午前2時を回っていた。
◆ ◆ ◆
――翌朝。
少し遅めに目を覚ますと、スマホが光っていた。
大山さん 7:31 『今日って、予定ありますか?』
見た瞬間、体がびくりと跳ねる。
平日はこちらの都合お構いなしに誘ってくる大山さん。
でもこの三か月、土日に連絡すら来なかった。
それが今朝は違う——。
こんなこと、初めてだ。夢の中じゃないかと疑った。
『今日空いてます!』 送信から一時間も経ってしまったけれど、すぐに返事が来る。
『昨日……お誕生日だったんですよね。よかったら、今日俺もお祝いしていいですか?』
布団の中で息を整え、ゆっくり起き上がった。
(誕生日って、聞こえちゃったんだ……)
昨日の花束のことが、頭の中で繰り返しよみがえる。
あのときの、ほんの一瞬見せた大山さんの顔——忘れられなかった。
深呼吸して、返事を送る。
「午後なら、大丈夫です」
数秒で返信が返ってきた。
『よかった。車でおうち周辺にお迎えにいきたいです』
胸が詰まるほど甘く、心が震える。
午後一時少し前。
待ち合わせ場所に着くと、広場の車の前に大山さんが立っていた。
黒い襟付きブルゾン、白いセーターにゆったりジーンズ——。
初めて見る私服姿に、胸が早鐘を打つ。
「こんにちは……その、今日は急にすみません」
「いえ……来てくださって、ありがとうございます」
自然に助手席の扉を開け、頭がぶつからないように座らせてくれる。
(慣れてるのかな……)
運転を始めると、大山さんは珍しく、言葉を選ぶようにしていた。
「昨日……外でお祝いしてもらったんですよね」
「え?……ああ、はい。まあ、仕事のお別れもあったので」
「花束まで、ありましたよね」
声が、わずかに硬い。
(気まずく置いてきちゃったこと、謝ったほうがいいのかな……。今も、気まずい……)
横顔を見ると、やっぱり少しぎこちない。
運転しながら、人差し指はハンドルをタップしていた。
「Y社の三品さんって、そういう、なんというか……
シマさんと前から仲良いんですか?」
「前にも何度かご飯行きましたし…… シリーズも長かったので。
仕事の延長線みたいなものですよ」
笑いながら返すと、大山さんはまだ低い声で続けた。
「……そうなんですね……。
誕生日までご飯行くくらい仲良いなんて、特別な感じなのかなって思いましたけど」
尋問されているような緊張感に、胸がざわつく。 (嫉妬……なのかな)
「いえ、全然そんなに仲がいいわけではないですよ!
昨日も何話せばいいかわからなくて、本当に気まずかったですし」
「ほんと〜かな〜?……」
そう言いながら、少しだけ笑みが戻った大山さんが、こちらを横目でチラッと見る。
「ほんとですよ〜!」 目線が合って二人で笑うと、胸の奥まで軽くなった。
「というか……昨日がお誕生日って、昼に聞くまで知らなくて。
何もできなくてすみませんでした」
「いえいえ、そんな、お気遣いなさらなくて大丈夫ですよ!!」
「今日は……お誕生会させてください」
思いもよらない言葉に、リアは軽く息を吸い込む。
少し恥ずかしそうに視線を逸らす大山さんの姿が可愛くてしょうがなかった。
(思い出話と、「あのデザインよかったね」くらいしか話すことがなかった…)
彼は目を細め、にこやかに笑いながら言った。
「色々と話せて嬉しかったです!
これからは会社や仕事関係なく、たまにご飯や飲みいきましょうー」
長年携わった仕事の一区切りの中で、こんなふうに誘ってもらえるなんて
——ありがたく、自然と微笑む。
帰り道の夜風に吹かれながら、スマホを一瞬だけ確認する。
大山さんからの通知は、一つもない。
胸の奥に、ちくりと痛みが走った。
(……なんで、期待してるんだろう、私)
ベッドに潜り込み、心を落ち着ける。
眠りに落ちたのは、午前2時を回っていた。
◆ ◆ ◆
――翌朝。
少し遅めに目を覚ますと、スマホが光っていた。
大山さん 7:31 『今日って、予定ありますか?』
見た瞬間、体がびくりと跳ねる。
平日はこちらの都合お構いなしに誘ってくる大山さん。
でもこの三か月、土日に連絡すら来なかった。
それが今朝は違う——。
こんなこと、初めてだ。夢の中じゃないかと疑った。
『今日空いてます!』 送信から一時間も経ってしまったけれど、すぐに返事が来る。
『昨日……お誕生日だったんですよね。よかったら、今日俺もお祝いしていいですか?』
布団の中で息を整え、ゆっくり起き上がった。
(誕生日って、聞こえちゃったんだ……)
昨日の花束のことが、頭の中で繰り返しよみがえる。
あのときの、ほんの一瞬見せた大山さんの顔——忘れられなかった。
深呼吸して、返事を送る。
「午後なら、大丈夫です」
数秒で返信が返ってきた。
『よかった。車でおうち周辺にお迎えにいきたいです』
胸が詰まるほど甘く、心が震える。
午後一時少し前。
待ち合わせ場所に着くと、広場の車の前に大山さんが立っていた。
黒い襟付きブルゾン、白いセーターにゆったりジーンズ——。
初めて見る私服姿に、胸が早鐘を打つ。
「こんにちは……その、今日は急にすみません」
「いえ……来てくださって、ありがとうございます」
自然に助手席の扉を開け、頭がぶつからないように座らせてくれる。
(慣れてるのかな……)
運転を始めると、大山さんは珍しく、言葉を選ぶようにしていた。
「昨日……外でお祝いしてもらったんですよね」
「え?……ああ、はい。まあ、仕事のお別れもあったので」
「花束まで、ありましたよね」
声が、わずかに硬い。
(気まずく置いてきちゃったこと、謝ったほうがいいのかな……。今も、気まずい……)
横顔を見ると、やっぱり少しぎこちない。
運転しながら、人差し指はハンドルをタップしていた。
「Y社の三品さんって、そういう、なんというか……
シマさんと前から仲良いんですか?」
「前にも何度かご飯行きましたし…… シリーズも長かったので。
仕事の延長線みたいなものですよ」
笑いながら返すと、大山さんはまだ低い声で続けた。
「……そうなんですね……。
誕生日までご飯行くくらい仲良いなんて、特別な感じなのかなって思いましたけど」
尋問されているような緊張感に、胸がざわつく。 (嫉妬……なのかな)
「いえ、全然そんなに仲がいいわけではないですよ!
昨日も何話せばいいかわからなくて、本当に気まずかったですし」
「ほんと〜かな〜?……」
そう言いながら、少しだけ笑みが戻った大山さんが、こちらを横目でチラッと見る。
「ほんとですよ〜!」 目線が合って二人で笑うと、胸の奥まで軽くなった。
「というか……昨日がお誕生日って、昼に聞くまで知らなくて。
何もできなくてすみませんでした」
「いえいえ、そんな、お気遣いなさらなくて大丈夫ですよ!!」
「今日は……お誕生会させてください」
思いもよらない言葉に、リアは軽く息を吸い込む。
少し恥ずかしそうに視線を逸らす大山さんの姿が可愛くてしょうがなかった。
