「大島リアさん、今までの五年間、長きにわたってコラボシリーズを
ご担当くださってありがとうございました!」
会議室に広がる大きな拍手。
深く頭を下げた瞬間、胸の奥がきゅっと痛んだ。
(これが終わっちゃうなんて。もっと続けていたかったのに)
自分のデザインが他社ブランドの“顔”として世に出る――。
夢のようだった五年間。
それが今日で区切りを迎えるなんて、まだ実感が追いつかない。
重役たちが退出して静けさが戻ると、Y社の担当・三品さんと二人だけが残った。
自然と会話は“別れ”の話題になる。
「大島さん、本当に寂しいです。絶対また戻ってきてくださいね!」
「……はい。ありがとうございます」
「もし決まらなかったら、うちの会社もぜひ検討してください。
雑貨企業なのでデザイナーとしては物足りないかもしれませんが…」
「そんなことないです。いつも本当に良くしてくださって……ありがとうございました」
柔らかい微笑み。
そのすぐあとに、ためらいのない声。
「もしよかったら、来週ご飯いきませんか?」
思わず瞬きした。
けれど、断る理由も浮かばない。
いつも丁寧で、明るくて、洗練された人。
「僕、金曜しか空いてないんですけど」
「大丈夫ですよ」
スケジュール帳に予定を書き込む。
(金曜日くらい、ヤマさんと話さなくても大丈夫だよね)
仕事の延長みたいな関係だし、執着しすぎるのはお互いに良くない
―― そう自分に言い聞かせた。
◆ ◆ ◆
予定の金曜日。 ランチへ向かおうとしたとき、後ろからミクちゃんの声が弾けた。
「大島さーん! お誕生日おめでとうございます!」
振り返れば、チームの子たちがかわいい入浴剤を差し出してくれる。
「ありがとう……! みんな、知ってたんだ?」
「当たり前ですよ〜。 先輩、こっそりみんなのお誕生日お祝いしてくれてたじゃないですか!」
胸がじんわり温かくなる。
(こんなふうに誕生日を祝われるなんて、いつぶりだろう)
そのまま楽しい空気のままランチへ。
新しい職場や家族の話が飛び交い、未来の話題で笑顔があふれる。
(こんないいメンバーで働けてたんだ……)
改めて、今までのことが悔やまれる。
昼休みから戻ると、自分の席のキーボードに見慣れた筆跡の付箋。
――『今日行けます?』
ヤマさんだ。 指先が付箋に触れると、ほんの少しだけ熱が宿る。
(……どこか、行きたいところあったのかな)
自分でも驚くような期待が胸の奥でふくらみ、慌てて押し込めた。
すぐにLINEで送る。
“今日は予定があります。すみません”
既読がつくだけで返事はない。
(まあ……そういう距離感だもんね)
見えない線が引かれているような空気。
踏み込まない方がいいと分かっていて、そのまま仕事に集中した。
