◆ ◆ ◆
その夜も。 お目当ては、恒例になってきた “楽しいこと革命” の活動だった。
今日の会場は、韓国風のごはんカフェ。
小さな個室スペースが連なっていて、ネオンカラーの間接照明がふんわり光る、可愛いお店だ。
コートを脱いで荷物をカゴに入れると
──当然のように、白いソファに並んで座ることになった。
(ち、近い……!)
肩が「触れそう」というより、普通に触れている。
冬なのに、彼の体温だけがじんわり伝わってきて、背筋が勝手に伸びた。
(汗の匂いとか、大丈夫かな……)
少し距離を空けるかと思えば──空けない。
むしろ、わずかに寄りかかってくる気配さえある。
運ばれてきたのは、くまさん型のケーキ。
テーブルに置かれた瞬間、大山さんがスマホを構える。
「かわいい……」
こぼれた声は、ケーキよりも甘かった。
その横顔があまりにも無邪気で、胸がきゅうっと縮まる。
(かわいいのはあなたですよ、本部長……)
フォークを口元に運んでいると、クリームが少しはみ出してしまった。
「シマさん、口……」
声が、やけに近い。
顔を上げるより先に、大山さんがふっと息を吐く気配がした。
すっと指が伸びて、私の唇の端に触れる。
ぬるっと、優しく。 その一瞬で、身体の奥が熱くなるのが分かった。
「……ついてました」
彼はそのまま何気なく指先を舌でぬぐい、ウエットティッシュで拭く。
(待って……自然すぎて、今の一瞬、付き合ってるって錯覚しちゃった……)
鼓動が煽られたまま、ふと大山さんのグラスに視線が止まった。
「……あれ? それチチじゃ……?」
淡いクリーム色。名前は可愛いけれど、実は──。
「甘いのがいいかなと思って」
強めのお酒入り。
(ちょ、アルコール……! 大山さん弱かったような……)
「それカクテルですけど、大丈夫ですか?」
「そうなの~?……大丈夫じゃないかも」
案の定だった。
しばらくすると、大山さんのまぶたがとろんと下がり、顔が近づいてきた。
(ち、近い!! アルコールのせい? いやでも、顔……距離……!)
そして――
コトン。
大山さんの頭が、私の肩へ落ちた。
「……あのー、ヤマさん、寝ちゃいました?」
動くと起こしてしまいそうで、身体ごと固まる。
少し動くたびに、くすぐったいほど心臓が跳ねた。
(心臓に悪い……)
そのときだった。
大山さんの唇が、かすかに首筋へ触れた。
「きゃっ……!」
反射的に声が漏れ、そっと離れようとした瞬間── 腕まで絡め取られた。
「うーん……ちょうどいい……」
小さく落ちた呟き。
酔っていて無意識なのか、それとも……。
(嘘でしょ……! 今日の大山さんどうしたの!?)
寝息が首にかかる。
絡められた腕は大きくて骨ばっていて、耐えられないくらい近い。
嵐のように降りかかる甘い攻撃の数々。
(こんなの……好きにならない方が無理……)
──しばらく、静かになっていたと思っていたら。
「……すみません、寝てました……」
大山さんはぱちりと目を開き、サッと離れた。
まだ顔は赤いのに、瞳はいつもどおり理性的だ。
「変な寝方しちゃって、びっくりさせましたよね。すみませんでした……」
「い、いえ。酔っちゃったんですよね」
大山さんは何事もなかったようにトレンチを羽織る。
「帰りましょうか」
その口調はいつもの、あの距離感だった。
(……あんなに甘くて近かったのに。掴んで、寄りかかって……)
今日こそ何か起きると思っていたのは── どうやら私だけだったらしい。
甘いのに、何も起きない。 落ちそうで落ちない。
その温度差が、じわり胸に染みた。
特別に甘い日の特別に甘い夜も、静かに終わった。
その夜も。 お目当ては、恒例になってきた “楽しいこと革命” の活動だった。
今日の会場は、韓国風のごはんカフェ。
小さな個室スペースが連なっていて、ネオンカラーの間接照明がふんわり光る、可愛いお店だ。
コートを脱いで荷物をカゴに入れると
──当然のように、白いソファに並んで座ることになった。
(ち、近い……!)
肩が「触れそう」というより、普通に触れている。
冬なのに、彼の体温だけがじんわり伝わってきて、背筋が勝手に伸びた。
(汗の匂いとか、大丈夫かな……)
少し距離を空けるかと思えば──空けない。
むしろ、わずかに寄りかかってくる気配さえある。
運ばれてきたのは、くまさん型のケーキ。
テーブルに置かれた瞬間、大山さんがスマホを構える。
「かわいい……」
こぼれた声は、ケーキよりも甘かった。
その横顔があまりにも無邪気で、胸がきゅうっと縮まる。
(かわいいのはあなたですよ、本部長……)
フォークを口元に運んでいると、クリームが少しはみ出してしまった。
「シマさん、口……」
声が、やけに近い。
顔を上げるより先に、大山さんがふっと息を吐く気配がした。
すっと指が伸びて、私の唇の端に触れる。
ぬるっと、優しく。 その一瞬で、身体の奥が熱くなるのが分かった。
「……ついてました」
彼はそのまま何気なく指先を舌でぬぐい、ウエットティッシュで拭く。
(待って……自然すぎて、今の一瞬、付き合ってるって錯覚しちゃった……)
鼓動が煽られたまま、ふと大山さんのグラスに視線が止まった。
「……あれ? それチチじゃ……?」
淡いクリーム色。名前は可愛いけれど、実は──。
「甘いのがいいかなと思って」
強めのお酒入り。
(ちょ、アルコール……! 大山さん弱かったような……)
「それカクテルですけど、大丈夫ですか?」
「そうなの~?……大丈夫じゃないかも」
案の定だった。
しばらくすると、大山さんのまぶたがとろんと下がり、顔が近づいてきた。
(ち、近い!! アルコールのせい? いやでも、顔……距離……!)
そして――
コトン。
大山さんの頭が、私の肩へ落ちた。
「……あのー、ヤマさん、寝ちゃいました?」
動くと起こしてしまいそうで、身体ごと固まる。
少し動くたびに、くすぐったいほど心臓が跳ねた。
(心臓に悪い……)
そのときだった。
大山さんの唇が、かすかに首筋へ触れた。
「きゃっ……!」
反射的に声が漏れ、そっと離れようとした瞬間── 腕まで絡め取られた。
「うーん……ちょうどいい……」
小さく落ちた呟き。
酔っていて無意識なのか、それとも……。
(嘘でしょ……! 今日の大山さんどうしたの!?)
寝息が首にかかる。
絡められた腕は大きくて骨ばっていて、耐えられないくらい近い。
嵐のように降りかかる甘い攻撃の数々。
(こんなの……好きにならない方が無理……)
──しばらく、静かになっていたと思っていたら。
「……すみません、寝てました……」
大山さんはぱちりと目を開き、サッと離れた。
まだ顔は赤いのに、瞳はいつもどおり理性的だ。
「変な寝方しちゃって、びっくりさせましたよね。すみませんでした……」
「い、いえ。酔っちゃったんですよね」
大山さんは何事もなかったようにトレンチを羽織る。
「帰りましょうか」
その口調はいつもの、あの距離感だった。
(……あんなに甘くて近かったのに。掴んで、寄りかかって……)
今日こそ何か起きると思っていたのは── どうやら私だけだったらしい。
甘いのに、何も起きない。 落ちそうで落ちない。
その温度差が、じわり胸に染みた。
特別に甘い日の特別に甘い夜も、静かに終わった。
