崖っぷち女子は屋上で拾ってくれた年下上司とスイーツ革命中

夜九時。

「できたて!」
ツヨシが、湯気の立つ食パンを胸に抱えて立っていた。
甘い香ばしさが、閉め切った部屋にふわりと広がる。

 彼とは友達の紹介で知り合って以来、
毎週のように焼き立ての新作パンを届けてくれる。
気がつけば、家に自然と上がり込む距離感になっていて——。
(この先には、きっと“告白”がある)
勝手にそう思い込んでいた。

「ねぇツヨシ。私、ずっと好きだよ。いつも優しくしてくれてありがとう」
 言えた瞬間、彼の表情が崩れた。
「……リア。ひどいよ」

「え……?」
「俺、本気で趣味合うし、“ソウルメイトだと思ってたのに。
 リアだけは俺のパン食べてくれるし、写真も可愛く撮ってくれるだろ?
 今までたくさんインスタにアップできたのもリアのおかげなのに」

(え……ソウルメイト……?)



 「でも——恋愛で見られてるなら、もう無理だ。ごめん」

そのまま、新作パンを抱え、彼は振り返りもせず帰っていった。
ドアの閉まる音が、やけに冷たく響いた。
(こんなに会いに来てくれてて……それでも“友達”って、あるんだ)

三十代半ば。恋人いない歴三年。
ようやく好きになれた人すら、こんな風に終わる。
(……私、もう恋できないのかな)
相談できる友達もいない。
みんな結婚したり子育てしたりで、世界の速度が違ってしまった。
昔のように気軽に連絡を取ることもできない。

冷蔵庫の缶ビールを開け、喉に流し込む。
バラエティ動画の明るい声だけが虚しく響く部屋。
(恋愛も友情も、もういい。仕事さえあれば、生きていける)
本気で、そう思っていた。