よく晴れた日、僕は外をゆっくりと歩いていた。手には携帯電話があり、その画面にはすこし長い文章とそれを吹き出しで言う可愛らしい女の子のミニキャラ、そして周囲の建物や道路などをデジタルで表した物とそれを歩く自分のアバターが表示されていた。

「今日も良い天気だなぁ……早穂(さほ)さん、大丈夫? 疲れてない?」
「大丈夫ですよ、(あゆむ)さん。今日も調子は良いですし、何より貴方とこうして“散歩部”の活動が出来るのが楽しいですから。お気遣いありがとうございます」
「それならよかった。でも、無理はしないでよ? 具合が悪くなってきたと思ったらちゃんと言ってね?」
「わかりました。はあ……それにしても、今日も本当に良いお天気ですね」

 早穂さんは空を見上げながら気持ち良さそうに笑みを浮かべる。歩きやすいように、そしてたとえ汚れても目立たないようにと考えられてと誂えられた上質な紺色のジャージを身に纏い、雪のように白くキメ細やかな肌やポニーテールにしているツヤツヤとした長く黒い髪が太陽の光を浴びるその姿は美術品のように美しく、そんな人とこうして一緒に歩いたり話したり出来る事が本当に幸せだと思えた。

「……本当に綺麗だな」
「え?」
「あっ、いや今日も早穂さんは綺麗だなと思ったらつい口に出て……」
「歩さん……ふふ、ありがとうございます。そういう歩さんだって初めてお会いした頃から凛々しく頼りになる方ですよ。あの日、歩さんと出会わなければ私はいつまでもお屋敷の中にいるだけで楽しい出来事にもこれまでお会いしてきたような素敵な方々にも出会う事はありませんでした。だから、私は歩さんに本当に感謝をしているんです。私を外へ連れ出して下さった事、そして私達の繋がりでもあるこのアプリケーションを紹介して下さった事も」

 早穂さんは上品な笑みを浮かべる。その姿が僕にはとても眩しく、そして美しく見えて頬がゆっくりと熱を持っていくのを感じた。

「見つけたのは偶然だったけどね。それに、早穂さんとの出会いが無かったら僕もこのアプリには手を出さなかったと思うし、こんなに楽しい日々を過ごす事もなかった。だから、本当にありがとう。僕に出会ってくれた事、そして僕に楽しい日々を与えてくれた事」
「歩さん……うふふ、こうしてお互いに褒めあってお互いに感謝をし合うというのは本当に気持ちが良いですね。私はこれからもこの関係を続けていきたいです」
「僕もだよ。大人になってもずっとこういう関係でいたいな」
「そうですね。では、散歩部の活動を再開しましょうか。改めて本日もよろしくお願いしますね、部長」
「こちらこそよろしく、副部長」

 二人で笑い合い、僕達はまた歩き始める。部長副部長と言い合った物のこの散歩部は僕達二人だけの部活動だし、どこかの学校で認可された物でもない。けれど、僕達にとっては大切な活動なのだ。

「そう、あの日からずっと大切なんだ」

 歩きながら僕は今日までの出来事を想起した。