《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

 麻里奈は、メイクルームの鏡の前で、しばらく瞬きもできずに立ち尽くしていた。
 
「……これ、ほんとに私?」
 
 思わずこぼれた声は、少し震えていた。
 
 鏡の中に映るのは、見慣れた自分とはまるで別の存在。
 目元にはシャープなラインと淡いシルバーのグリッターがきらめき、
 頬には陰影が落とされ、柔らかな印象は影を潜めている。
 金色のウィッグ、エメラルドグリーンのカラコン。
 マットなダークピンクの唇は、強さと儚さを同時に宿していた。
 
 ――そこに、“鈴木麻里奈”の面影はほとんど残っていなかった。
 
「すごい……こんなに、変わるんだ……」
 
 呟いた瞬間、背後から声がした。
 
「似合ってるよ。“Twilight Notes”のMARI」
 
 振り返った麻里奈は、息を呑む。
 
 そこに立っていたのは――大和ではなかった。
 黒いウィッグに紫のカラコン。
 彫りの深いシャドウで作られた鋭い眼差し。
 少年の面影を残しながらも、どこか妖しく、美しい“アーティスト”。
 
「……誰、君」
 
 冗談めかして言うと、彼は小さく笑った。
 
「KAIって名前にしようと思ってる。
 君と並ぶなら、少しくらいカッコつけないとさ」
 
 その笑顔に、麻里奈の胸が静かに高鳴る。
 
(――私たち、本当に“誰でもない誰か”になるんだ)
 
 “変身”は、ただの仮装じゃない。
 本当の自分の一部を隠しながら、
 新しい自分を選び取るための、覚悟そのもの。
 
 でも――
 大和……いや、KAIが一緒なら、怖くなかった。
 
「MARIとKAI。
 Twilight Notes、ここに誕生だね」
 
 そう言って、ふたりはそっと指先を合わせた。
 
 鏡の中で、ふたつの光が重なり合い、
 まるで新しい世界の扉が静かに開くようだった。
 
 ――もう、後戻りはできない。
 けれど、それでいい。
 
 ここから、すべてが始まるのだから。