《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

 コンパクトな建物の一室に、夜の静けさが染み込んでいた。
 天井のミラーライトが、ゆらめくような淡い光を床に落としている。
 大和の自宅兼ダンススタジオ。
 その中央で、麻里奈は素足のまま、そっと床に腰を下ろしていた。
 
「……ほんとに、やるの?」
 
 不安を含んだ問いに、大和は迷いのない眼差しでうなずく。
 
「ここで終わりたくないんだ。
 俺、君ともう一度、あのときみたいに歌って踊りたい。
 舞台に立ちたい。……でも今のままじゃ、無理だろ?
 だったら、正体を隠してでもやるしかない」
 
 麻里奈は視線を落とし、そっと拳を握った。
 舞台、ステージ、表現すること。
 もう諦めたはずの夢が、彼の言葉で静かに息を吹き返していく。
 
「……わかった。でも、バレたら大ごとだよ?
 私たち、事務所に黙ってやることになるんだから」
 
「だからこそ、完璧に隠そう。
 声も、顔も、全部。
 仮面でもウィッグでも、なんでも使ってさ」
 
 大和はノートパソコンを開き、いくつものビジュアル案を映し出した。
 未来的なフェイスマスク。
 スモークを使ったライティング。
 匿名性を保ちながらも、心をつかむ演出。
 
 その光が彼の瞳に反射し、まるで“もうひとりの大和”が生まれようとしているかのようだった。
 
「Twilight Notes、始めよう。
 ……あの時の、君とのユニットの名前で」
 
 懐かしさと覚悟が滲んだ声に、麻里奈は思わず息をのむ。
 
「一緒にステージに立った、あの時の名前……」
 
「忘れられないんだ。
 俺にとって、初めて“本当の自分”になれたステージだったから」
 
 二人の視線が、静かに重なる。
 迷いと期待、恐れと希望が、その沈黙の中で交錯していた。
 
 ――その夜、二人は“秘密”を共有した。
 誰にも明かせない、もうひとつの夢を抱えて。
 光と影の狭間で生まれた、他言無用の“共犯関係”として。