《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

 撮影は順調に進んでいた。
 スタッフが機材調整に入った、束の間の休憩時間。
 
 大和はペットボトルの水をひと口飲み、無意識にスタジオの隅へと視線を向けた。
 そこにいたのは、光輝と話す麻里奈の姿。
 
 笑っている。
 けれど、その笑顔はどこか硬く、逃げ道を探しているようにも見えた。
 
(……麻里奈さん、やっぱり、いつもと違う)
 
 そう感じた、その瞬間だった。
 
 光輝がふいに一歩、彼女との距離を詰めた。
 
「ネックレス、曲がってるよ」
 
 穏やかな声。
 だが次の瞬間、長い指先が、ためらいもなく麻里奈の首元へ伸びる。
 
 鎖に触れる指。
 近すぎる距離。
 
 まるで――恋人同士の、それだった。
 
(……なに、してるんだよ)
 
 大和の喉が、からからに乾く。
 視線を逸らそうとしても、体が言うことをきかない。
 
 光輝は、麻里奈の耳元に顔を寄せ、低く囁いた。
 
「その表情も、可愛いよ。……俺だけに見せて?」
 
 麻里奈の目が、わずかに見開かれる。
 指先が、ほんの少し震えた。
 
 拒絶の言葉は、なかった。
 けれどそこに浮かんだのは、笑顔とは言えない――
 逃げ場を失ったような、曖昧な微笑。
 
(麻里奈さん……)
 
 胸の奥に、焼けつくような痛みが走る。
 息を呑む音すら、出なかった。
 
(……やっぱり、あの人と、何かあるんじゃ……)
 
 口にすれば壊れてしまいそうな疑念が、
 静かに、しかし確実に――
 大和の心を締めつけていった。