《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

撮影スタジオの控えスペース。
照明のセッティングや機材チェックの音が混じり合い、スタッフたちのざわめきが絶えない。
 
その中を、麻里奈はゆっくりと歩いていた。
目は覚めているはずなのに、頭の奥がまだ霞んでいる。
足元が少し不安定で、ふらつきそうになるのを、必死にこらえながら。
 
「……麻里奈さん?」
 
スタジオの扉をくぐった瞬間、声がした。
 
そこに立っていたのは、大和だった。
彼は一瞬、言葉を失ったように目を見開き、麻里奈を見つめる。
 
「……おはようございます」
 
反射的に微笑み、軽く会釈をする。
けれど、大和の表情はすぐには緩まなかった。
 
ゆっくりと距離を詰めてきて、少しだけ声を落とす。
 
「昨日……ちゃんと帰れた?
 かなり酔ってたみたいだったから……」
 
「……うん。ありがとう。
 ちょっと、飲み過ぎちゃっただけ」
 
「……ほんとに?」
 
その一言が、ほんのわずかに低くなる。
大和の視線が、自然な流れで麻里奈の服へと落ちた。
 
――その瞬間、空気が変わった。
 
「その服……なんか、いつもと雰囲気ちがうね」
 
「え?」
 
「……いや、似合ってるけど。
 ただ……誰かに、選んでもらったのかなって」
 
心臓が、どくんと大きく跳ねた。
麻里奈の指先が、無意識にスカートの裾をきゅっと握りしめる。
 
「……ちょっと、ね。
 朝、バタバタしてて……自分じゃ選べなくて」
 
苦し紛れの言葉だった。
 
大和は何か言いかけて、息を吸い――
けれど、そのまま口を閉じた。
 
その瞳には、
何かに気づいてしまったような、
それでも確かめたくないような――
複雑な揺れが浮かんでいる。
 
「……そうなんだ。
 無理、しないでね」
 
それだけを残し、大和はゆっくりと控室の方へ歩き出した。
 
麻里奈は、その背中をただ見つめていた。
喉の奥が、きゅっと締めつけられる。
 
――さっきまで身につけていた服よりも、
ずっと重たい“何か”を、
自分は今、着せられている気がして。