《TwilightNotes ― 夜明けに鳴る音》

「麻里奈くん……だいぶ酔ってるな」
 
 グラスを傾ける彼女を見て、光輝が眉をひそめた。
 けれど麻里奈は、頬を赤く染めたまま、にっこりと笑う。
 
「酔ってなんかいませんよ〜! ほら、もっと飲みましょ!
 須田さんも、大和くんも……すみませ〜ん、おかわりくださ〜い!」
 
 声は大きく、ろれつももう危うい。
 テーブルの上で、氷がからんと乾いた音を立てた。
 
「バカ……もうやめろよ。飲みすぎだって」
 
 思わず立ち上がった大和。
 だがその腕を、光輝が静かに制した。
 
「……俺が送っていく」
 
 低く、落ち着いた声。
 けれどその奥に潜む“強さ”を、大和ははっきりと感じ取っていた。
 
「須田さん……?」
 
「ほら、麻里奈くん。立てるか?」
 
「や、やだぁ……! まだ飲みますから……」
 
 ふらついた麻里奈が、テーブルに手をついて抗議する。
 光輝は小さく息を吐き、彼女の肩に手を添えた。
 
「もう十分だ。ほら、行くよ」
 
「……えへへ……須田さんって、優しいですよね……」
 
 光輝に支えられ、麻里奈は千鳥足で店を出ていく。
 夜の光の中で揺れるその背中を――
 
 大和は、追えなかった。
 
 立ち上がることもできず、ただ黙って見送るしかなかった。
 
 喉の奥が、ひどく乾く。
 耳の奥に、さっきの麻里奈の無邪気な笑い声が、いつまでも残っている。
 
(……俺は、また何もできなかった)
 
 拳が、知らず強く握られる。
 胸の奥で、悔しさと焦り、そして――
 どうしようもない嫉妬が、静かに絡まり合っていく。
 
 店の扉が閉まり、夜風がすき間から吹き込んだ。
 冷たい空気の中に、
 麻里奈の甘い香りだけが、まだ残っていた。