家に帰って風呂を済ませてから、ベッドで澪を抱えてふてくされていた。


「瑞希さん?」

「んー」

「……瑞希くん?」

「……ん」

「あのですね……耳を貸してもらえますか?」

「……うん」


 腕の力を緩めると、澪が這い出して俺の耳元に口を寄せた。


「お祭りのとき、私、お弁当やお酒を配る係なんです」

「うん。知ってる」

「瑞希さんに大きいお弁当を用意しておきますので、お役目が終わったら、取りに来てください」

「……うん」


 甘やかし方が花音にちょっと似ててウケる。

 ……つまり、俺の拗ね方が藤乃に似てるって気づいた。

 やだな、あのキモい義弟に似るなんて……。


「あとですね、私も……あの、嫌なので、すぐ来てください」

「なにが?」

「……瑞希さんが、女の人に囲まれてちやほやされるの」

「なんの話?」


 思わず顔を上げたら、澪がなぜかムスッとしている。

 俺、なんかしたっけ?

 最近は気をつけてるんだけど。


「前回の写真をお義母さんたちに見せてもらったんです。神社に戻ってきた須藤さんと瑞希さん、女の人に囲まれてたじゃないですか」

「そうだったっけ……」

「そうです。その、仕方のないことかもしれませんけど、そういう役目かもしれませんけど……あんまり、見たくないです」


 澪の声がどんどん小さくなる。

 なんつーか、珍しい顔だ。

 ニコニコしてるか、申し訳なさそうにしてるか、消えそうになってた澪が、ふてくされた顔をしている。


「つまり、ですよ。その、私も我慢しますので……瑞希さんも、あの、ちょっと、我慢してください」

「……うん。ごめん」


 手を伸ばして澪の顔を引き寄せる。

 唇をかじると、澪はまた嬉しそうな顔になって擦り寄ってきた。

 あれだ。

 つまんない嫉妬はバレてたらしい。

 結局、宥められていいように転がされたってわけだ。


「なあ、澪」

「はあい」

「お前、強くなったな」

「えへ、由紀の嫁ですので」

「そっか」

「でも、ですね」

「ん?」


 なぜか澪が照れた顔で俺を見上げた。


「みんなの前で、指輪つけてって言われたの、ちょっと嬉しかったです」

「なんでだよ」


 意味わかんねえな。

 まあ、いっか。

 甘えた嫁さんが、こっち見てるし。

 次は、指輪をつけさせて……あとはどうしたら、誰から見ても俺のだってわかるだろう。

 藤乃がデカい石をつけた婚約指輪を贈った気持ちが痛いほどわかる。