季節は巡り、隣のあなたはいつでも美しい

「ぱ、パパー」


 冬の日の夕方、俺、由紀瑞希が畑の隅で農具を洗っていたら二歳になる娘の花菜が駆け寄ってきた。


「どうした?」

「どうもしない」


 花菜は口ではそう言いながらも、俺のズボンをぎゅっと握った。


「ママは?」

「おばあちゃんと、しごと」

「じいさんは……配達か」


 畑では従業員がパラパラと働いているくらい。

 そろそろ暗くなるから家に戻っていて欲しいけど、俺にくっついてるなら別にいいか。


「ママに、パパのところに来るって言ったか?」

「いった」


 手を拭いて、一応妻の澪に花菜が来ていることだけ連絡しておいた。


「暇なら手伝え」

「うん」


 使い終えた農具を片付け、泥だらけの長靴を洗う。洗い場も流し終えたら、畑を見て回って明日出荷予定の花を確認した。

 従業員に声をかけて全員帰せば今日の仕事はおしまい。

 空はすっかり暗くなって、冬の月やら星やらが光っている。

 花菜は俺と手をつなぐか、つなげないときはズボンを握って黙ったままついてきていた。


「花菜、そろそろ帰るぞ」

「うん」

「晩飯何か聞いた?」

「れんこんとおにくだって」

「そら楽しみだ」


 花菜と手を繋ぎ直したら冷たかったから、屈んで抱き上げた。

 やけに強く抱きつかれたから、澪に怒られでもしたんだろう。


「ただいまー」

「おかえりなさい、瑞希さん、花菜」

「ママ、えんでご、もういない?」

「えんでご?」


 首を傾げたら澪が微笑んだ。


「いないから大丈夫。手を洗っておいで」

「パパも」

「はいはい」


 手洗いうがいをして、そのまま花菜を連れて風呂を済ませた。

 『えんでご』がなんであるか、晩飯のときに澪が教えてくれた。


「夕方のテレビで世界の妖怪やお化けについてやっていたの。ウェンディゴっていうカナダや北米に伝わる妖精がいるんですって」

「それが怖かったのか?」


 聞くと花菜は顔をしかめて頷いた。


「そういやこの間、花音とこの双子も白魔が怖くて寝られなかったっつってたな」


 一緒に晩飯を食っていた親父が笑いながら言った。花音は俺の妹で、花菜と同い年の双子の娘がいる。


「同じ番組でも見たんかな。花菜ちゃん、怖いならじいちゃんばあちゃんと一緒に寝るかい?」

「ううん、パパとねる」

「そら残念」

「パパ、おおきいから」

「違いないや」


 親父はからから笑って、箸を進めた。

 花菜は寝るまで俺にへばりついていて、澪が笑いながら写真を撮って花音に送っていた。


「パパ」


 寝かしつけのために花菜と暗い寝室で横になってたら、話しかけられた。


「寝ろよ」

「なんもいない?」

「いない」

「こわいから、て、つないで」

「はいはい」

「なんかいても、いないっていって」

「わかったよ」


 どんだけ怖いんだよって思ったけど、寝かしつけの後に澪にスマホで見せてもらったら、マジで怖かった。

 いやいや、子供向けの絵面じゃねえだろ。

 翌日花音から、


「うちも怖がって藤乃さんと藤也にべったりだったよ」


 と聞かされたけど、納得しかなかった。