「瑞希さん?」

「んー」

「怒ってます?」

「怒ってない」

「お姉さんに教えてくれませんか?」

「……かっこ悪いから、嫌だ」


 腕の中で澪が困った顔をしている。

 まあ、そうだろうな。

 地域の青年会から帰ってきて、風呂を済ませてからこっち、俺は黙ったまま、澪を腕の中にしまいこんでいるのだから。




 そもそもは、青年会で澪が囲まれていたことだった。

 もうすぐ秋の祭りがある。俺と藤乃は前回同様に毛槍を持って神輿の先導役。澪は前回、花音がやっていた、弁当やビールを配る係をやる予定だ。

 ……最初は、澪はお袋らと弁当選びをしたり、長机の配置の相談をしていた。

 それがいつの間にか、法被の手直しを手伝い始め、気付いたらおっさんたちの衣装のサイズ合わせをしていた。

 それならまだ良かったけど、若い連中が澪の回りに集まって、「俺のもお願いします!」「ここちょっとキツくて……」なんて言い出した。


「澪」

「はい!」


 ついムカついて声をかけたら、澪はパッと笑顔で顔を上げた。


「瑞希さん、いかがなさいましたか?」

「……いや、あとで俺のも頼む」

「承知しました。任せてください」


 微笑む澪に、周りの男連中がでれっとするのが、ほっんとーに腹立つ。


「お前、なんで今日は婚約指輪つけてねえの?」

「作業中に引っ掛けたりぶつけたりしたくなかったので、置いてきました」

「次からつけてこい」

「……わかりました」


 澪は目を丸くしながらも頷いた。

 我慢できなくて、澪の頭をくしゃっと撫でる。

 近くで地図を見ていた藤乃が呆れた顔をしてるけど、無視して自分の作業に戻る。